2014年度年次報告

量子波光学顕微鏡ユニット

教授 新竹 積

要約

1.本ユニットは低エネルギー電子線を用いた回折電子顕微鏡と電子線ホログラフィーの研究開発を行っている。数KeV ~ 数十KeVエネルギー電子線と位相回復法を用いて、生体サンプルを損傷なくサブナノメートル分解能で観察できる電子顕微鏡の開発を目指している。これまで本ユニットは日立ハイテクサイエンス社と回折型電子顕微鏡の共同開発を行い、電子線回折の回折パターン生成と検出用鏡筒の開発を本ユニットで行った。2014年度は実像に位相回復可能なホログラフィー像の取得に成功した。

2.再生可能ネルギーの1つとして海流発電を提案している。我々の海流発電は海の中層に係留したタービンで海流を受け,海水の運動エネルギーを電気または別のエネルギーに変換する計画です。海流発電グループではこれまでに曳航試験,回流水槽での係留試験などを行い,基本原理を検証してきました。現在では,沿岸近くの潮流を用いて試験を行うために10 kW機(ブレード直径5 m)の研究開発を進めています。 2014年度は主に2つのことを行いました。1つは中層浮体による海中での浮体の運動観測と潮流の観測です。 2つ目に,回流水槽を用いて模型タービンの性能試験を行いました。

1.スタッフ

  • 白澤 克年、スタッフサイエンティスト
  • 平井 照久、スタッフサイエンティスト
  • 安谷屋 秀仁、ポストドクトラルスカラー
  • 山下 真生、ポストドクトラルスカラー
  • チャン  マーティン  フィリップ、ポストドクトラルスカラー
  • ​武部 英樹、技術員
  • 藤田 潤、技術員
  • 南 潤一郎、技術員
  • カラレ チョラ、OIST PhD Student
  • 下嶋 亜由美、リサーチアドミニストレーター

2.共同研究

  • テーマ:海流タービンの開発
    • 共同研究の分類:共同研究
    • 研究者
      • 岩下英嗣 教授、広島大学
      • 徳永紘平(修士2年) 広島大学​
  • テーマ:​電子顕微鏡用TEMグリッドの研究
    • 共同研究の分類:共同研究」
    • 研究者
      • 水野潤 教授、早稲田大学
      • 桑江博之(修士2年)、徐秉陽(大学4年) 、早稲田大学​

3.研究成果

3.1 電子顕微鏡開発グループ

回折電子顕微鏡概念設計

コヒーレントなビームより得られた回折像に位相回復法を繰り返し行うことによって、回折像の位相を確定し実像を構築することは原理的に可能である。この方法は対象物体が二次元構造のみの場合には回復した位相は一意的であり、正確な実像が構築出来るが、対象が三次元構造を持つ場合は位相が一意的に回復出来ない。
我々は、この問題はホログラフィーによる実像構築法により解決可能であることが分かった。
この手法を生体サンプルに適用する場合、サンプルの損傷を回避するため、照射電子のエネルギーは数KeV~数十KeV程度であることが望ましく、サンプル厚は照射電子が透過するために充分薄い必要がある。

回折電子顕微鏡の開発

これまでSEMと加工用の収束イオンビーム(FIB)を備えた走査型電子顕微鏡DMF4000の開発をおこなってきた。また数キロ電子ボルト以下の電子線回折パターン取得が可能な検出器鏡筒の開発も行った。この検出器鏡筒は独自の電子光学と8kx8kの二次元CMOSセンサーを特徴とし、これによって低エネルギー電子の原子間距離レベルのブラッグ回折パターンの取得が可能となる。また収束イオンビーム加工によって、金属コートされたTEMグリッド上に実際のウイルスと同程度の数十~百ナノメートル程度の微細加工技術も開発してきた。

2014年度は、数ナノメータの分解能が見込まれるホログラフィー像をテストターゲットから生成する技術を確立した。これら一連の開発を通して、高分解能で位相回復可能なホログラフィー像の生成には、一般に考えられる電子線のコヒエレンシーや安定度のみならず、TEMグリッド表面の物性も重要であることも分かり、現在、サブナノ高分解能を目指して最適化を試みている。またホログラフィー像から従来よりも高速安定な実像回復が可能となるよう研究中である。

観察用の試料の作製においては、1) 低エネルギー電子線の透過性の確保、2) 電子線照射に伴う試料の帯電、3)顕微鏡真空下での試料の脱水による形態変化、の3点を考慮して本研究のイメージングの要件に適した試料の形状について最適化を行っている。上記1)及び2)については炭素一原子の膜厚と高い導電性を併せ持つグラフェン膜上へサンプルを保持する技術の開発を中心に研究を行い、これまでにグラフェンサンプル支持膜を有するTEMグリッドの作製法を確立した。また、3)については、数nmオーダーの試料の微細構造を保持できる凍結乾燥技術をウイルス、DNAサンプルを用いて開発した。将来的にはより汎用性の高い氷包埋の技術を低エネルギー電子線イメージングに応用することを目指して研究を進めている。

図1:  OIST電子顕微鏡;左側よりDMF4000、回折電子線検出器鏡筒、F816CMOS検出器。

図2:  加速10KeVの電子ビームと30ミクロン径アパチャーによるフレネル干渉縞をF816検出器で撮影。電子ビームの高いコヒエレンスを示している。

Diffraction image from our test target taken F816 CMOS detector.

図3:  F816CMOS検出器で取得したテストパターンからの電子線回折像。 この回折データを基に再構成したホログラフィー像は3-4 nmの分解能を達成した。

10 kV scanning transmission electron microscope (STEM) image of the graphene support film.

図4:  グラフェン支持膜の走査透過電子顕微鏡(STEM)像(加速電圧10 kV)。表面汚染の無い理想的な支持膜が実現できている。(図中のラインはグラフェンドメインの境界線に相当する。)

3.2 海流発電グループ

観測用中層浮体

  私達が開発している海流発電機は,波浪の影響を避けるため海中で動作します。2014年は,実際の潮流を測定し,浮体の運動を観測するために観測用中層浮体を沖縄県北部に設置しました。システムの概略図を図1に示します。中層浮体には水深計,水温計,加速度センサーが設置されています。海上には通信機器をそなえたブイを設置して,測定されたデータを大学まで送ります。ADCPも備えており,潮流の流速・流向の鉛直方向分布を測定しています。得られたデータは,係留システムやタービンを設計する際に使用します。

観測用中層浮体システムの概略図

図1:  観測用中層浮体システムの概略図。

タービン単独試験​

  タービンの設計・性能評価を回流水槽にて行いました。製作したタービンの小型模型を図2に示します。材質はアルミ,タービン直径は300 mmです。流速・タービン回転数を変更しながらトルク・回転数とスラスト力を測定し,設計通りの性能を確認しました。パワー効率は最大0.42程度でした。今後は更なる高効率化と潮流と海流に最適な構造と性能を持つタービンの開発を行っていきます。

模型タービン

Figure 2:  回流水槽で行った性能試験に用いた模型タービン。

 

4.研究業績

4.1 雑誌

  1. OISTに於ける海流発電の技術開発,新竹積,白澤克年,日本海水学会誌 第68巻第5号,平成26年10月
  2. Building a Sustainable World,新竹積,Scientific American Special issue published in partnership with ALSTOM, Supplement of the french edition no447, p41 (2015).

4.2  講演発表

  1. SACLA X-RAY FEL BASED ON C-BAND TECHNOLOGY (GERSCH BUDKER PRIZE LECTURE), 新竹積,5th International Particle Accelerator Conference (IPAC14), International Congress Center Dresden, Germany (2014)
  2. SACLA Hard X-ray Free Electron Laser Based on Normal Conducting Accelerator Technology, 新竹積,12th International School and Symposium on Synchrotron Radiation in Natural Science (ISSRNS14), Conference center at Hotel BOSS, Warsaw, Poland (2014).
  3. 破波帯に設置する回転ブレード方式波力発電の提案(インテリジェント波消ブロックの可能性), 新竹積,海洋エネルギーシンポジウム,佐賀大学海洋エネルギー研究センター(2014).
  4. OISTに於ける海流発電の技術開発, 白澤克年新竹積,日本海水学会第65年会シンポジウム「海洋エネルギー開発の現状と未来」,沖縄男女共同参画センター「てぃるる」(2014/6/20).
  5. OIST海流発電機の小型模型による係留試験, 白澤克年新竹積南潤一郎,徳永紘平,岩下英嗣,橋詰泰久,日本船舶海洋工学会 平成26年度春季講演会,仙台国際センター(2014/5/26)
  6. Development of an ocean current turbine at OIST, 白澤克年新竹積,徳永紘平,岩下英嗣,International symposium on ocean renewable energy technologies, 九州大学(2014/12/20).
  7. Submerged Hydraulic Turbine for Deep Marine Current as a Electric Power Generator, 白澤克年,徳永紘平,岩下英嗣,新竹積,再生可能エネルギー2014国際会議,東京ビッグサイト,東京 (2014).
  8. ヒト赤血球膜タンパク質AE1(バンド3)の構造解析,平井照久,第76回日本血液学会学術集会,大阪国際会議場(2014/10/31).

 

5.イベント

5.1 セミナー

タイトル: Coherent Diffractive Imaging of Cells and Macromolecular Complexes at SPring-8 and SACLA

    • 日付: 2014年4月9日
    • 会場: OIST キャンパス 第一研究棟 C016会議室
    • 講演者: Mr. Marcus Gallagher-Jones, Ph.D. student, Liverpool University

    タイトル: Multi-Purpose CMOS Cameras for Electron and X-Ray detection; Sensitivity, Resolution, Dynamic Range, Speed

    • 日付: 2014年5月15日
    • 会場: OIST キャンパス 第一研究棟 C015会議室
    • 講演者: Mr. Hans Richard Tietz, Managing Director, Tietz Video and Image Processing Systems GmbH, Germany

    タイトル: Future High-Energy Colliders / Charting the Unknown

    • 日付: 2015年2月18日
    • 会場: OIST キャンパス 第一研究棟 C015会議室
    • 講演者: Dr. Frank Zimmermann, Senior Scientist at CERN (Switzerland)

    タイトル: Project of a 3 GeV High Brilliant SYnchrotron Light Source, "SLiT-J"

    • 日付: 2015年3月30日
    • 会場: OIST キャンパス 第一研究棟 C015会議室
    • 講演者: Dr. Hiroyuki Hama, SLiT-J Office, Electron Photon Research Center, Tohoku University