スピンメーザーによるマイクロ波増幅 (No.0156)
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概要
量子技術のための高い増幅利得を実現する新しいマイクロ波増幅器。
世界の量子技術市場規模は、年平均38.4%の成長率で310億米ドルに達すると予測されています。量子技術市場は、単なる計算にとどまらず、あらゆるデジタル通信、アプリケーション、コンテンツ、商取引を革新的に変える技術と期待されています。通信分野では、量子技術は暗号化から、A地点からB地点への信号の受け渡し方法まで、あらゆるものに影響を与えます。量子コンピューティングや量子情報の研究における重要な技術課題の1つは、極低温(ミリケルビン)での低電力マイクロ波信号処理、すなわち、微小なマイクロ波信号をできるだけノイズを加えずに増幅することです。このような低雑音の極低温増幅は、ジョセフソンパラメトリック増幅器(JPA)と呼ばれるデバイスによって実現されてきました。しかし、これらのJPAは、ダイナミックレンジが限られており、すなわち、入力飽和電力が非常に小さいため、量子コンピュータが処理できる量子ビット数が制限されてしまうという問題があります。久保結丸博士らの研究グループは、この問題を解決できる新しいマイクロは増幅器を開発しました。
応用
- 量子コンピュータ
- 超高感度スピン共鳴分光器
- 極低温マイクロ波技術
利点
- 高い増幅率 (30dB)
- 広いダイナミックレンジ (-70 dBm以上、少なくとも1000倍以上)
- ほぼ量子限界のノイズ性能(ノイズ温度は~0.5K)
技術のポイント
本技術は、宝石結晶中にドープされた不純物スピンを利用したメーザー増幅器です。ダイアモンド中に窒素不純物スピンをポンピングし、弱いマイクロ波トーンを送信してマイクロ波共振器から出力される信号をモニターすることで、その効果を検証しました。ノイズ温度は約0.5Kと測定され、量子限界に近いことが分かりました。また、飽和出力は少なくとも約100ピコワットで、現在の最先端のJPAよりも3桁以上高い値を示しています。このようにダイナミックレンジが広がった結果、より多くの量子ビットを量子コンピュータで処理することが可能になります。
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