人工冬眠の誘導による側頭葉てんかんの治療 (No. 0227)

 
<< 技術一覧に戻る

概要

側頭葉てんかん(TLE)は、焦点てんかんの中で最も頻度が高く、全世界で6,000万人以上の患者がいると考えられています。発作を繰り返す慢性疾患であり、薬物療法が困難ことでも知られています。現在利用可能な治療法は一部の患者にしか効果がなく、成功したとしても、重篤な副作用を引き起こすか、ごく短期間の緩和しか得られないのが現状です。田中和正教授率いるOISTの研究チームは、人工的に冬眠を誘導することで、TLEの発症を予防できる可能性のある新たな方法を開発しました。この技術は、先駆的な治療アプローチに向けた大きな一歩となります。

 

准教授
田中 和正

記憶研究ユニット

応用

  • てんかんの制御・治療

 

利点

  • 冬眠後も組織損傷や記憶喪失は見られない
  • 長期的な効果
  • 従来の治療法では効果のない患者にも有効な可能性

   

実験の概要:冬眠誘導の流れ

   

潜伏期間の長さが対照群の約4倍にまで延長

     画像クリックで拡大

技術のポイント

本発明は、側頭葉てんかんマウスにおいて、潜伏期に「冬眠」状態(Q-neuron induced hibernation and hypothermia:QIH)を誘導することにより、慢性期への移行を大幅に遅らせることができることの発見から生まれました。TLEは急性期、潜伏期、慢性期の3つの段階を経て進行しますが、この発見は潜伏期の性質をめぐる進行中の議論にも洞察を与えるものです。QIHの誘導は、脳内のQ神経と呼ばれる特殊な神経細胞を活性化させる、最近報告された方法を用いて行われました。QIHマウスは、非QIHマウスに比べて潜伏期が3倍長く、さらには発作の重症度も抑制されることが示唆されています。Q神経はヒトを含む多様な動物種間で広範に保存されていることから、今回の結果は、ネコやイヌなどの他の動物のてんかん、ひいてはヒトのてんかんを制御・治療するための大きな可能性を示しています。

 

メディア掲載・プレゼンテーション

 

問い合わせ先

  
OIST Innovation 技術移転セクション

  tls@oist.jp
  +81(0)98-966-8937