研究内容
戦略
CCR4-NOT 複合体を構成する9種の蛋白質について、遺伝子改変マウスを作成し、解剖形態学・分子病理学により解析して個体レベルでの生理的意義を確立する。また培養細胞レベルでのCCR4-NOT 複合体の作用に関して、分子細胞生物学的解析やプロテオミクスならびに構造生物学的解析により、複合体形成・複合体維持さらには複合体活性調節の角度から研究を進める。これらの知見を合わせ、デアデニレース反応の不全で発現が影響を受けるmRNA 種を炙り出しながら、CCR4-NOT デアデニレース複合体を介するmRNA 代謝・分解機構を、生理機能や細胞内シグナル伝達の中に俯瞰的に捕らえて理解する。膨大な遺伝子発現解析結果や蛋白質相互作用解析結果の情報はバイオインフォマティクス研究者の協力を得て進める。まず、CCR4-NOT 複合体構成成分のうちでも特にデアデニレース活性を示すサブユニットやアデニレース活性を直接制御することの分かっているサブユニットを欠損するマウスの作成・解析を優先する。以下は進め方の例である。Cnot7 デアデニレース欠損マウスは精子形成不全を示すことから、精巣等で発現が上昇しているmRNA 種をmicroarray 法等で探索しその中からpoly(A)長が変化したり安定化したりしているmRNA 種を探し出す。またデアデニレース活性を調節するCnot3 をコードする遺伝子のヘテロ欠損マウスは痩せ形質を示し、肥満耐性であった。この形質に関連して発現量が変化しているmRNA 種群を探索し、見出した標的候補mRNA種については、その3’ UTR に結合しうるmicroRNA や蛋白質を同定し、それらとCCR4-NOTデアデニレース活性との機能連携を探りだす。同様の手法により他のCnot サブユニット遺伝子を欠損するマウスについても病態解析に立脚してCCR4-NOT デアデニレース標的mRNAを網羅し、普遍的なCCR4-NOT デアデニレース活性がどのような仕組みで特異性を発揮し標的mRNAを識別するのかを、生理機能に基づいて明らかにする。
期待される成果と意義
細胞が外来刺激に応答して変化させる遺伝子発現の多くは、mRNA の安定性に依存している。従ってmRNA の安定性制御機構を明らかにすることは生命の理解に大きく貢献する。本研究から、mRNA 代謝に関わることが分かっているのの、これまで未解明であったCCR4-NOT複合体の生理学的意義が明確になり、その結果として転写後制御の重要な仕組みが明らかになると期待される。本研究の成果は、生命現象の基幹である遺伝子発現(=mRNA 代謝)制御の中のmRNAサイレンシングやmRNA 分解について、教科書レベルの知見をもたらすものと期待される。