Issue 7 2023年9月 コミュニティの構築
多様性・公正性・インクルージョン担当のプログラム・ディレクター、クリスティン・マカパガルが新たに就任し、C-Hubスポットライトを通じて公正な実践とプロフェッショナル能力育成に関するコンテンツへ寄稿していくことになりました。多様性・公正性・インクルージョン担当オフィスから次号以降も発信していきますのでお楽しみに。
今月のトピック:コミュニティの構築
「自分の居場所を意識する時に、私たちは共同体の中にいる。所属する(Belong)という言葉には2つの意味がある。まず第一に、所属するということは、何かに関係し、その一部であるということである(中略)所属するという言葉の第二の意味は、所有者であるということと関係がある。共同体に属するということは、その共同体の創造者の一端を担い、共同所有者として行動することである」ピーター・ブロック Community: The Structure of Belonging
あなたが「自分はこのグループに属している」という感覚を得られた経験を思い浮かべて下さい。帰属意識を生み出した集団の力学や特徴は何でしたか?
また、「ここには自分の居場所がない」と感じた時のことを思い浮かべてください。最初の経験と、この2番目のケースの違いは何でしたか?
ストレスやコミットメントが肥大し、孤立や孤独の増大が叫ばれる時代において、OISTという場でも参加者皆が共に築き上げるインクルーシブなコミュニティについて意図的に考え、行動することが重要です。
科学的根拠
人間は本質的につながりや帰属を求めています。他者から社会的に受け入れられ、仲間として認識されていたいという欲求は非常に強く、人は社会的排除を身体的苦痛と同様に経験することがあります(MacDonald & Leary, 2005)。孤独を感じると、社会的なつながりを求める欲求が飢餓に似た渇望反応として脳に記録され(Tomova et al., 2020)、孤独は身体的・精神的な健康状態に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています(Hawkley & Cacioppo, 2010)。コミュニティのつながりや帰属意識を感じることは、私たちのアイデンティティの感覚と結びついており、より大きな幸福感(Cramer & Pawsey, 2023)、より良い健康状態(Michalski et al., 2020)をもたらし、職務上の成果を上げる(Gerlach, 2019)ことが分かっています。
大学やその他の組織では、多数派の人々のニーズや関心に焦点を当てがちですが、マイノリティである人々のニーズや経験を疎外したり、弱体化させたりすることは、「欠陥モデル deficit model」的思考(訳注:社会や組織構造・体制ではなく、成果を出せない本人の努力不足や、元々の資質に欠陥があるとみなす偏見を含んだ思考)につながる危険性を孕んでいます。研究により、(コミュニティ内で)支援を提供する際に欠陥モデルから派生したアプローチを排除することが、深く根付いた疎外感、よそ者である感覚やインポスター症候群を取り除く最大の可能性があることが示されています(Pedler et al., 2022)。また、組織におけるアクセシビリティの有無は、メンバーの帰属意識とインクルーシブさへの意識に重大かつ継続的な影響を及ぼしています。さらに、組織におけるニューロダイバーシティへの配慮やユニバーサルデザイン中心のアプローチに対する認識と理解を深めることにより、組織内の帰属文化に大きな影響を与えることができるのです。
異なる友人グループ、クラブ、所属団体のような複数のネットワークに所属することは、自尊心や自信に良い影響を与えることが明らかになっています(Jetten et al.)。また、研究者たちは、「所属する」ということに複数の意味合いがあり(Hirsch & Clark, 2018)、深い人間関係はもちろんのこと、単なる知人との比較的緩い肯定的な交流により、心理的なつながりやウェルビーイングの感覚を向上させる関係性の両方が含まれることを示唆しています(Sandstrom and Dunn, 2014)。
今日からできる実践方法
管理職の場合:
-
自分自身の思い込みや偏見が、多様性、革新性、創造性を犠牲にし、同質性を永続させうる可能性に注意を払う
-
アクセシビリティのニーズに対応することで、大学全体のコンテンツ、コミュニケーション、実践が公正性を生み出すように設計されるよう、インクルーシブ・デザイン思考について学ぶ
-
チームメンバーの経験、強み、専門知識を特定し、それを検証することで、グループの成功に一人ひとりが重要である理由を全員が理解できるようにする
-
新メンバーがサポートされていると感じられるように、新メンバーの仕事にとって重要な人たちと新メンバーとのつながりを促進させる
-
チームのメンバーに自分たちの仕事についてどのような気持ち・情緒で向き合ってほしいかを明確に伝え、管理職として自分の行動を一致させる
-
どのような研究室や職場文化が帰属意識、コミュニケーション、コラボレーションを高めるかを明確にし、その文化を共創するために全員ができる具体的な行動を特定するために、チームワークが促進される機会(ワークショップ、リトリートなど)を設ける。
-
仕事上の業務以外でもお互いを知ることができるような、非公式な場を設ける
-
チームのコミュニティ形成・実践のために、C-Hubのコンサルテーションやコーチングセッションを活用する
全ての人:
-
あなたや他の人たちが「このグループの一員である」と帰属意識を感じられるようなコミュニティの共同創造に、自分がどのように貢献できるか考える
-
自分の思い込みや偏見を自覚し、自分と似た人ばかりに惹かれる傾向がないか検証する
-
ネットワーク内の人々をランチやコーヒーに誘ったり、キャンパス内を散歩したり、アイデアについて話し合うための非公式なキャッチアップに誘う。相手は多忙なスケジュールを抱えていたとしても、あなたの招待に感謝し、将来同様のアプローチをしてくれる可能性があがります。
-
周囲の誰かが隔絶や孤立を感じているかもしれないと感じた場合は、その本人と対話を試みる。特定のトピックに関する相手の専門知識・経験、意見やアイデアを求めることに興味があることを伝えて、意思疎通を図ることも効果的。
-
C-Hubのコンサルテーションやコーチングセッションを利用する
-
小さく始める:コミュニティは、一度に一つのつながり、一度に一つの小グループで築くことができる場と捉えて、小さなステップを踏み出す
-
参考文献と補足資料:
Block, P. (2018). Community: The structure of belonging. Berrett-Koehler Publishers.
Cramer, K. M., & Pawsey, H. (2023). Happiness and sense of community belonging in the world value survey. Current Research in Ecological and Social Psychology, 4, 100101–100101. https://doi.org/10.1016/j.cresp.2023.100101
Gerlach, G. I. (2019). Linking justice perceptions, workplace relationship quality and job performance: The differential roles of vertical and horizontal workplace relationships - Gisela I Gerlach, 2019. German Journal of Human Resource Management. https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/2397002218824320
Hawkley, L. C., & Cacioppo, J. T. (2010). Loneliness Matters: A Theoretical and Empirical Review of Consequences and Mechanisms. Annals of Behavioral Medicine, 40(2), 218–227. https://doi.org/10.1007/s12160-010-9210-8
Hirsch, J., & Clark, M. S. (2018). Multiple Paths to Belonging That We Should Study Together. Perspectives on Psychological Science, 14(2), 238–255. https://doi.org/10.1177/1745691618803629
Jetten, J., Branscombe, N. R., S. Alexander Haslam, Haslam, C., Cruwys, T., Jones, J., Cui, L., Dingle, G. A., Liu, J. H., Murphy, S. C., Thai, A., Walter, Z., & Zhang, A. (2015). Having a Lot of a Good Thing: Multiple Important Group Memberships as a Source of Self-Esteem. PLOS ONE, 10(5), e0124609–e0124609. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0124609
MacDonald, G., & Leary, M. R. (2005). Why Does Social Exclusion Hurt? The Relationship Between Social and Physical Pain. Psychological Bulletin, 131(2), 202–223. https://doi.org/10.1037/0033-2909.131.2.202
Michalski, C. A., Diemert, L., Helliwell, J. F., Goel, V., & Rosella, L. (2020). Relationship between sense of community belonging and self-rated health across life stages. SSM-Population Health, 12, 100676–100676. https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2020.100676
Pedler, M. L., Willis, R. and Nieuwoudt, J. E. (2022) ‘A sense of belonging at university: student retention, motivation and enjoyment’, Journal of Further and Higher Education, 46(3)
Sandstrom, G. M. (2014). Social Interactions and Well-Being: The Surprising Power of Weak Ties - Gillian M. Sandstrom, Elizabeth W. Dunn, 2014. Personality and Social Psychology Bulletin. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0146167214529799
Tomova, L., Wang, K. L., Thompson, T. W., Matthews, G. A., Takahashi, A., Tye, K. M., & Saxe, R. (2020). Acute social isolation evokes midbrain craving responses similar to hunger. Nature Neuroscience, 23(12), 1597–1605. https://doi.org/10.1038/s41593-020-00742-z