2020年7月
「皆さんと一緒にこの状況を乗り越えられるよう協力したいため、微力ながら賛同します。」この春、OISTのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策基金設立後、寄付者の一人の中村様から頂いたメッセージです。基金設立以来、OISTによる取り組みに注目し、他にも多くの方々が寄付をしてくださいました。OISTでは革新的な数学モデル構築から、フェイスシールドの3Dプリンター製作、抗体検査まで、沖縄や世界中の人々のコロナ対策で先頭に立っています。
新型コロナが広まった最初の数週間、沖縄は幸運だったと思う方もいらっしゃるでしょう。全世界では急激に感染者数が増加しましたが、沖縄の感染件数は比較的低い状態でした。もちろん、これは決して運の問題ではありません。即時かつ厳格な対策が講じられていなかった場合、数千人が感染した可能性があることをOISTで開発された数学モデルは示しています。
OISTのピーター・グルース学長は、数学モデルのデータを沖縄県と共有し、県は継続的な確固とした行動指針としてモデルを使用しました。またグルース学長は、沖縄県民向けにコロナウイルスの科学、政府による対策、安全維持に関する一連の記事を地元の主要紙である琉球新報に寄稿しました。
その間、多くのOIST研究者は、自分達の研究を中断し、世界的なコロナ危機に注目しました。世界中でフェイスマスクなど、必要不可欠な防護具の材料供給が不足していたため、日常的な材料を使用した医療レベルのフェイスマスクを複製する独創的方法を設計し、オープンソースを介して国際社会がこの方法を利用できるようにした研究者もいました。またN95マスクなどの個人用保護具を病院で必要なときに安全に再利用できるよう、紫外線で滅菌するプロセスを開発した研究チームもありました。その他にも、免疫研究に不可欠な抗体検査の開発も実施されました。
これらの取り組みを促進し、地域社会を支援するため、OISTはCOVID-19対策基金を立ち上げました。危機の緊急性は明白で、既存の方々からもご新規の方々からも、さらに沖縄だけではなく海外からも寄付が直ちに集まり始めました。 寄付者の一人である勝連様は、自宅で自粛する以外にウイルスと闘う一つの方法として、寄付による貢献を考え、「OISTが研究とその結果を沖縄へ提供していると知り、少額でも寄付できればと思った。」と語ってくださっています。
ご寄付は額の大小に関わらず、科学教育、医学研究、世界中の人々の健康への投資です。 COVID-19対策基金への寄付は、合計200万円近く寄せられています。これらの資金は、OISTによるコロナウイルスパンデミック対策の継続的な取り組みにあたり、直接的な支援となっています。グルース学長は「地域社会やグローバルコミュニティを支援するため、私たちと一体となりご寄付をして頂いた皆様全員に、感謝申し上げます」と述べています。
この対策基金が支援した初期プロジェクトの1つは、3Dプリンターを使用したフェイスシールドの製造で、2つの点で功を奏しました。1点目は、プロジェクトに取り組んだ技術者と学生が、各シールドに必要な材料の量を削減し、より短時間で多く生産できる方法を発見したことでした。2点目は、4月にOISTが作製した2,000枚のフェイスシールドを、沖縄県内の最前線で働く医療専門家に寄付したことで、コロナウイルスの飛沫やエアロゾルを介した感染からの防護に役立てることができたことです。
また、この対策基金は、「OISTジェル」と呼ばれるアルコールジェルを供給するプロジェクトも支援しました。このプロジェクトには、さまざまなOISTの研究ユニットやその他の部署から25名のボランティアが取り組みました。実験室における安全訓練を受けた研究者がジェルを作り、ボトル詰めをしました。ボランティアがラベルのデザインおよび地元と協力し、OISTキャンパス、中部病院、恩納村にジェルを配布しました。ジェルを受け取った地元の保育施設からは、「子供たちが『バイキンさん、バイバイ!』と唱えながら、みんなで感染予防対策に活用しています。」とのメッセージが届いています。
OISTの研究とボランティアの取り組みもあり、沖縄県ではウイルスの地域感染を事実上排除することができました。しかし効果的なワクチンが利用可能になるまで、世界の人口の多くはウイルスに対し脆弱なままです。そのためOISTは、150を超える機関が参加するCOVID-19分子地図プロジェクトに加わりました。この学際的な取り組みでは、科学者が新型コロナウイルスを研究し根絶するため使用している世界中のデータを収集し、発信しています。
COVID-19対策基金は、COVID-19の撲滅を目的とした研究調査、パートナーシップ、世界規模のイニシアチブへの資金提供において、引き続き重要な役割を果たしてまいります。最近のプロジェクトとして、ソーシャルディスタンシングの経験についてアンケート調査や、キャンパス内でのPCR検査実施による既存の検査施設の負荷の緩和にも貢献しています。このような取組みは、市民の皆様の善意による資金的な支援を受けることで、より一層進めることができます。
「私たちは共に、この課題に取り組んでいます。OISTは科学的専門知識、リソース、人材に恵まれており、これらを用いて社会をサポートすることは私たちの義務です。」と、グルース学長は語ります。 寄付者の川崎様は以下のようにコメントされています。「本当に大事な場面において、基礎科学がどのようにポジティブな影響を与えられるかを示してくれたOISTの積極的な対応に、心から感謝しています。非常に国際的かつ文化的宗教的な多様性を持つOISTチームは、善良な市民であること、必要な時にできることをすることの意味を提示してくれたのです。OISTのイニシアチブの一員となれたことに誇りを持っています。」 今後もCOVID-19対策基金を通して社会サポートを邁進する所存であり、引き続きご寄付賜りますようお願い申し上げます。なお米国在住の寄付者の方は、OIST財団を通じてご寄付頂きますと税額控除が受けられます。
最後に、寄付者の玉城様からの温かいご支援のお言葉を付記させて頂きます。「世界中が影響を受けているコロナ対策に沖縄のOISTが貢献するのは、県民として誇りに思います。」
エミリー・ワイスグラウ
翻訳:竹野内 真理、冨村 ゆう子