OISTと沖縄コミュニティをつなぐSTEM教育

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2020年9月

    2018年、ロバート(ボブ)・ナカソネ氏がOISTの評議員に任命されたとき、彼はOISTのリーダーたちに非常に具体的な質問をしました。

 「コミュニティでSTEM教育を推進するためにOISTはどのような取り組みをしていますかか。」

 ナカソネ氏はハワイ出身(沖縄移民2世)で、マサチューセッツ工科大学(MIT)で物理学を学び、東京を拠点とするデュラセルの日本事業を率いてきました。彼は、STEM(科学・技術・工学・数学)教育は沖縄の人々が新しい経済フロンティアを開拓し、イノベーションと成長を推進して、何世代にも渡る持続可能な未来を築くための手段であると信じています。沖縄のより多くの若者に科学や工学の学習機会を提供するプログラムへの支援を通じて、自身のこの信念とOISTへの寄付を一つにつなげたいと考えました。

 ナカソネ氏は自分の時間を2つの故郷であるハワイと沖縄で分け、二島間の政治およびビジネスネットワーク構築を支援しています。彼は島の生活における利点と課題について深い認識を有しています。

 沖縄県などの資料によると、沖縄は全国学力テストの順位が低く、高等教育を受けている若者の割合(36%)が他の県よりも低くなっています。また、大学進学者においても科学を専攻する学生は少数です。

 これらの課題はOISTの取り組みだけでは解決できませんが、ナカソネ氏の就任時の質問に答えるならば、OISTは地域のSTEM教育を推進することで、これらの課題に取り組んできました。例えば、2010年に始まり、一般公開される毎年恒例のOISTサイエンスフェスタは沖縄で最大の科学イベントの1つで、毎年何千人もの来場者を魅了しています。こどもかがく教室は恩納村内の小中学生を対象にした、実際に科学に触れて体験することにより好奇心を刺激するプログラムです。毎年夏休みの1週間に渡り行われ、多くの地元の子どもたちや保護者が楽しみにしています。また年に数回、OISTの職員やボランティアが石垣島や宮古島などの離島を訪れ、地元の学校で出前講座や科学実験教室などの科学イベントを実施しています。

 開拓者でありチャレンジ精神旺盛なナカソネ氏は、これらの取り組みを称賛する一方で「私たちにはまだまだできることがあるはずだ」と述べました。

 そしてその言葉通り実行しました。

 ナカソネ氏はOISTのための募金イベントを企画し、彼が共同設立した非営利組織であるハワイのワールド・ワイド・ウチナーンチュ・ビジネスアソシエーションのメンバーを招待しました。沖縄の人々を意味する「ウチナーンチュ」の名を冠した同協会の使命は、沖縄のビジネス、文化、教育を支援することです。

 沖縄および世界中の若いウチナーンチュがOISTへの入学を検討、準備し、実現できるように、ナカソネ氏らはOISTに25,000ドル(260万円以上)の寄付をしてくださいました。

 この寛大なご寄付は、沖縄科学技術大学院大学発展促進県民会議が年間約180万円をOISTの地域連携プログラムに配分している支金を補完するものです。

 OISTの創設者と指導者たちは、教育のアウトリーチを通じて、科学の世界と沖縄のコミュニティをつなぐ必要性を長い間認識してきました。OISTが設立されたとき、この若い大学には学際的な研究で沖縄の自立的発展に寄与するという責務が与えられました。

 現在、そのミッションはOSITの新しい戦略計画に組み込まれています。OISTは、以下の目標を達成するため、幅広く質の高い教育プログラムを開発します。

  • 科学や技術を学び、将来OIST大学院生になりたいという気持ちを沖縄の学生に抱かせる。
  • 未来社会を見据えてアクティブラーニングを重視する2020年文部科学省学習指導要領を地域の教育者が実現できるよう、プログラミング及びコンピュータ技能、STEMといったテーマに焦点を当てながら支援し、教育への学際的アプト―リを促進する。
  • 学生の大学進学を促進しつつ、英語による教育の選択肢を増やす。

 フィランソロピーは、これらの目標を達成する上で重要な役割を果たします。ナカソネ氏と彼の友人からの寄付に加え、OISTは、沖縄県の芸術、文化、スポーツ、教育などの振興を目的に活動している団体・個人を支援する「オーキッドバウンティ」からも支援金をいただきました。この支援金は、市民科学の育成(OKEON美ら森プロジェクト)、女子中高生の科学分野の進学・就職の奨励(サイエンスプロジェクトfor琉球ガールズ)、県内における海洋科学の促進(大学マリーンイニシアティブ)を含むOISTのアウトリーチプログラムに活用されています

[※オーキッドバウンティ:ダイキン工業株式会社と琉球放送株式会社が主催するダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメントのプロアマ大会参加者からの浄財と主催者の寄付金による基金。]

 オーキッドバウンティ事務局は、「世界中から一流の研究者が集まり最先端の研究をされているOISTの沖縄地域への貢献活動は、大変貴重であり、意義深いものだと捉えています。特に、沖縄の自然環境保全や未来の女性技術者創出などの活動には目を見張るものがあり、浄財をお贈りさせていただきました。今後も、OISTのさらなる沖縄地域貢献活動に注目していきたいと考えております。」と述べています。

 米国の寄付者の方々も、ニューヨークに拠点を置く独立非営利団体OIST財団を通じて、STEM教育普及の取り組みを支援してくださっています。シアトルに拠点を置き、ワシントン州日米協会の理事も務める沖縄系アメリカ人のショウコ・ファーマー様は、琉球ガールズプログラムを支援するため個人として寄付をしてくださいました。そして彼女が勤務するラッセル・インベストメント社はその寄付と同額を寄付し、影響を倍増させました。

 Tanaka Memorial Foundationは琉球ガールズプログラムと離島の学校へのサイエンストリッププログラムを支援する2つの助成金について誓約してくださいました。Tanaka Memorial FoundationとOIST財団の両理事会にてリーダー的立場にある上島剛氏は次のように述べています。『OISTをこれらのフィランソロピーの投資と結びつけることにより、OISTがより多くの沖縄の学生をSTEMプログラムに参加させることが可能となるため、大変嬉しく思います。』

 OISTは研究および大学院教育のために日本政府から寛大な補助金を受けていますが、地域社会への支援活動は公費では賄えないことが多々あります。OISTに正式に所属していない地元の学生を支援するこれらの重要なプログラムを実施するには、外部資金に頼らざるを得ません。

 最近、科学教育アウトリーチチームが新設された部署のOIST副研究科長のミサキ・タカバヤシ博士は「皆様のご支援に深く感謝しております。」と述べています。このチームは、大学が新たに強化した地域社会のためのSTEM教育の取り組みの一例で、チームは既存プログラムに加えて新規プログラムにも取り組みます。

 OISTに質問を提起してから2年後、ナカソネ氏は世界中のOISTコミュニティからのサポートがあれば、地元の学生やその家族に実践的でインタラクティブ、かつ学際的なSTEM教育の体験を提供するために、できることは常にあることを証明しました。その後、ナカソネ氏はさらに2つの個人寄付をOISTのSTEMアウトリーチプロジェクトに行いました。

 沖縄の若者の教育と未来に深い関心を寄せ、私たちが更により多くのことを成し遂げると信頼してくださっている寄付者の皆様へ、心から感謝申し上げます。にふぇーでーびる。

エミリー・ワイスグラウ、ジェ・パン
翻訳:リンダール 明子、冨村 ゆう子