2022年末グルース学長からの手紙
親愛なる友人、同僚の皆様、OISTコミュニティメンバー及び支援者の皆様へ
困難からはチャンスが生まれ、努力と献身と忍耐があれば、チャンスは成果に結びつきます。2022年OISTでは、ここ2~3年の数々の困難から、新たなチャンスが生まれました。今年はOISTの皆さんがZoomを使って在宅勤務することから始まり、設立10周年を祝って全員が一丸となった年でもありました。また岸田総理をキャンパスにお迎えした年であり、ウクライナからの科学者や学生が沖縄で新たな機会を見出だした年でもあります。沖縄が日本に返還されて50周年を迎えた年でもあります。OISTの100人目の学生の卒業を祝う年であったと同時に、創立者である尾身幸次氏の死を悼んだ年でもありました。今、この記念すべき年の終わりに、2年以上の歳月を経て、国内外のコミュニティの皆さんをキャンパスに迎え入れるための扉を再び開く時を迎えました。この年末の便りを通じ、職員の皆さん、メンターの皆さん、学生の皆さんの努力と献身によってもたらされた多くの重要な進展について思い起こしながら、祝福の意を表したいと思います。
学内最新情報
新型コロナの大流行中に辛抱強く待ち続けた後、新入生、教職員、幹部の皆さんは、ようやく美しい沖縄の地で新生活をスタートできました。9月にはOIST入学式を開催し、新たな旅の始まりを祝いました。29カ国から集まった79名の博士課程の学生、12名の教員に加え、今年は幹部にも新たなメンバーが加わりました。
新たな才能溢れる人材が加わった一方、私たちは2人の優れたリーダーとお別れをせねばなりませんでした。芝田政之博士は、財務担当副学長として、さらには新型コロナのパンデミックという極めて不確実な時期に事務局長代理として、OISTのために熱意をもって尽くしてくださいました。また、メアリー・コリンズ博士は、OISTの歴史だけでなく、私たちの記憶にも大きなインパクトを残してくれました。博士はOISTでの5年間、当初は研究担当ディーンとして、後にOISTのプロボストとして、本学の重要な要素の形成に貢献してくれました。OISTを際立たせているのは、私たちの素晴らしいコミュニティと後援者の方々によるご支援です。リズ&ケン・ピーチ夫妻は、長年にわたり、慈善活動を通じてOISTを支援してくださっており、今年、お二人の栄誉を称える記念プレートの除幕式が行われました。ロバート・ナカソネ氏は、沖縄の若者が科学分野でキャリアを積むことを奨励するため、昨年、ご両親に敬意を表して「仲宗根松郎・ツル子基金」の設立に貢献されました。私たちは先月、より良い未来に向けたナカソネ氏の取り組みを称え、記念プレートの除幕式を行いました。
最近、OISTには2つの大きな進展がありました。1つ目は、仮説駆動型コンソーシアムという新しい枠組みを確立したことです。将来の先端科学技術の領域に参加するだけでは十分ではありません。OISTは、私たちが共有する未来に向けた創造をリードしていきたいと考えています。その目的のために、仮説駆動型の科学的探究を様々なアプローチで行うテーマ別クラスターは、OISTの科学とイノベーションの進展の鍵を握っています。その一貫として、根本香絵教授が率いるOIST量子技術センター(OQT)が開設されました。また、2つ目の大きな展開として、OISTはグローバル・バイオコンバージェンスイノベーション拠点を間もなく立ち上げる予定です。科学技術振興機構から10年間の助成を受け、OISTの新拠点は、日本の社会との共創に向けた産学連携に取り組みます。
理論科学客員プログラム(TSVP)は今年始まったばかりですが、著名な科学者招聘プログラム(DVSP)とともに、すでに大きな注目を集めています。これらの招聘プログラムは、研究者がもたらす科学的知識と、推進する科学との間の橋渡しをし、受け入れ機関に大きな価値を提供します。TSVPは、OISTの戦略や学際的な使命にうまく融合しています。ニック・シャノン教授率いる設立委員会、深井朋樹教授が委員長を務める客員選考委員会、そしてTSVPチームの努力のおかげで、今年もOISTで多様な著名理論科学者を受け入れる機会に恵まれました。
C-Hubでは、学生、スタッフ、研究者のための専門的な能力開発が続けられています。2月に開催されたインクルーシブメンタリング・ミニシンポジウムでは、約150名の意欲的な研究者や専門家が集まり、インクルーシブ・メンタリングが、いかに生産的なコラボレーションを実現して成功を導くチームを生み出す可能性があるかについて、共に考え議論しました。さらに教育とコースデザインに関する新しい認定プログラムも開始され、これがコミュニティの多くの人々に恩恵をもたらしてくれることを私は確信しております。
2019年にスタートしたOISTオンブズオフィスは、今年から新たにインフォーマルな調停を行うサービスをポートフォリオに加えました。このような代替的な紛争解決アプローチにより、コミュニティの皆さんが安心して懸念を表明し、最適な解決策を見出すことができるようになるでしょう。また、フレッシュな印象の新OISTウェブサイトが構築されました。この大規模プロジェクトを実現させたデジタルコンテントチームの多大な努力を誇らしく思います。新型コロナが私たちの生活に影響を及ぼし、さらには実際に感染をもたらすようになった以前は、ティータイムは新たなつながりや友情、コラボレーションの創出に役立つ人気のソーシャルイベントでした。ティータイムの再開は、年内にもたらされた嬉しい贈り物となりました。
私たちの素晴らしいキャンパスは、今年も進化を続けました。第5研究棟の建設は最終段階に入り、太陽光発電システムの設置計画も実行されました。新鮮な野菜や市販薬、お惣菜を購入できるコンビニエンスストア、イオンもキャンパスに登場し、第4研究棟D階のラウンジには人気のソーシャルスペースが誕生しました。CDCの子どもたちがゴム素材の敷かれた新しい遊び場を楽しめるようになり、学生の居住エリアであるザ・ガーデンズの工事が完了しました。ひまわりが咲き誇る光景は、暗い時代にも希望を持ち続けること、そして熱心なボランティアの方々のこのような活動は、コミュニティの連帯を常に見出そうとする姿勢を私たちに思い起こさせてくれました。
10月、皆に親しまれていたOISTの学生が海難事故に巻き込まれて命を落とすという悲劇が襲いました。私たちは共に学生の死を悼みながら、周囲の人たちと慰め合いました。その後、コミュニティを守るため、OISTメンバーは新たな海洋安全トレーニングコースを受講しました。
10周年記念イベント
今年5月、OISTは設立10周年の記念すべき祝賀イベントを開催しました。まず学位記授与式では、22名の博士号修了者に向けて、彼らがOISTで達成した成果を、誇りと共に祝福しました。今年の授与式で祝辞を述べたジェームス比嘉氏は、自身の経験やアドバイスを修了生に伝え、常に限界を超え、卓越性を追求してほしいというインスピレーション溢れる言葉を私たちの胸に刻んでくださいました。ピーター・グルース最優秀博士論文賞を受賞した進化ゲノミクスユニットのジギャーサ・アロラ博士をはじめ、修了生の皆さんにおかれましては、ご卒業本当におめでとうございます。
10周年記念コンサートでは、ヴィヴァルディ「四季」の美しい演奏が私たちを迎えてくれました。バイオリニストの加野景子さん、琉球交響楽団、東京からの演奏者の方々、東京藝術大学前学長の澤和樹さんが一体となって、素晴らしい舞台を作り上げ、私たち観客を魅了してくださいました。
10周年記念式典では、多くの来賓の方々から祝辞を頂戴しました。岸田総理大臣、細田博之衆議院議長、西銘恒三郎沖縄及び北方対策担当大臣は、OISTの開学からの10年間における成功についてお話ししてくださいました。玉城デニー沖縄県知事と長濱善巳恩納村長は、OISTが地域社会に与えてきた影響について語ってくださいました。また、サントリーホールディングス株式会社の新浪剛史代表取締役社長は、OISTのミッションの推進に携わることができたことを誇りに思うとお話しされました。ノーベル賞受賞者のヴェンカトラマン・クリシュナン博士は基調講演で、科学とイノベーションと、それらが国の繁栄と発展を生み出す役割について語ってくださいました。ご参加くださった皆様のおかげで特別な式典となったことを感謝するとともに、とりわけ、OISTに対し温かなお祝いの言葉をお寄せくださったご来賓の皆様に心より御礼申し上げます。
このような素晴らしいイベントや、一見難なくこなせたかに見えた式典の裏には、OISTの多くのディビジョンやセクションの皆さんが途方もない時間をかけて準備してきた背景があります。これはまさにOISTが一丸となって成し遂げたプロジェクトであり、皆さんのご支援とご理解なしには実現しなかったでしょう。学長オフィス、広報ディビジョン、事務局長オフィス、技術開発イノベーションオフィス、施設管理ディビジョン他、このプロジェクトに関わったすべての方々に深く感謝します。OISTメンバーの新型コロナワクチン接種、PCR検査や抗原検査の提供等の感染症対策が、コミュニティの安全と健康を守ることにつながっていると来賓の方々から特に多くの称賛と賛辞を頂きました。
昨年より開始したOIST10周年記念キャンペーンは、目標額を上回る成功を収めることができました。OIST財団をはじめ、OISTにご寄付頂いた方々による多大なるご厚意に感謝いたします。最後に10周年記念の一部としてのOISTタイムカプセルは、OISTの今のメンバーの思い出を大事にしつつ、OISTの未来世代にメッセージを託すエキサイティングなコミュニティ・プロジェクトとなりました。
研究ハイライト
2年強ぶりに再開した学長主催講演会では、ウィーランド・フットナー教授を講師に迎え「A gene that made our brain big(ヒトの脳を大きくした遺伝子)」に関する研究をご紹介いただきました。また、OISTの教授陣とその多様な研究分野を身近に感じることができる、新たなプロボスト主催講演会シリーズが誕生しました。11月に退職された丸山一郎教授が初回講演を行い、科学者としてのご自身の歩みをお話しくださいました。さらに、銅谷賢治教授が共同主宰するNEURO2022が沖縄で開催され、会場に集まった約2000人の参加者が、神経変性疾患やシナプス可塑性、脳回路など様々な問題について議論を交わし、本国際会議は大成功を収めました。
OISTの質の高い科学技術研究は、今年も新たな大躍進を遂げました。物理生物学ユニットの研究チームは、ツツイカの安価で効率的な養殖システムの開発に成功し、捕食者を避けるためにツツイカが背景に合わせて体色を変化させる擬態の様子を初めて明らかにしました。脳科学の分野では、細胞分子シナプス機能ユニットのチームが、アルツハイマー病におけるタウ・タンパク質の役割を解明しました。また、「飛ぶ」という日本語に由来するTob遺伝子が抑うつ、恐怖、不安に密接に関係していることが、細胞シグナルユニットの研究で明らかになりました。そして今年は、チンアナゴのユニークな摂食方法、レイビシロアリや宿主イソギンチャクの進化の道のり、フィリピンの淡水ハゼの新種2種の存在が明らかになりました。進化ゲノミクスユニットでは、1,500種のシロアリを解析し、シロアリのサイズに関する有力仮説を覆しました。また、核酸化学・工学ユニットの研究チームは、遺伝子の多様性を高めるために不可欠とされる中立ネットワークの存在を初めて実験で示しました。フェムト秒分光法ユニットは、長寿命で実用的な太陽電池の開発を加速させました。同ユニットではまた、量子技術に重要なモアレ励起子の動きの可視化に成功しました。エネルギー材料と表面科学ユニットは、次世代LEDの実現に向け、ペロブスカイトの不安定性の弱点克服が期待できる新たな手法を発見しました。
量子の世界では、量子マシンユニットの研究者が量子誤りを訂正する新しい手法を発見し、機械学習を用いた量子システムの安定化手法を提案しました。生体分子電子顕微鏡解析ユニットは、ポックスウイルスの構成要素を明らかにし、ポックスウイルス感染症の治療薬の開発につながる高分解能の3D画像の撮影に成功しました。生体制御分子創製化学ユニットでは、生物医学研究や医薬品に有用な分子をピルビン酸から製造する有機触媒システムを開発しました。
タンパク質触媒反応の約半分を補助するのが補酵素と呼ばれる分子です。タンパク質工学・進化ユニットでは、多用途に利用可能な人工酵素の設計に役立つ補酵素とタンパク質の相互作用を証明しました。アコヤガイは、貝が生み出す真珠の経済的価値が高いことから日本の重要な水産資源となっていますが、近年、その個体数が減少し問題になっています。マリンゲノミックスユニットはアコヤガイのゲノム解読に成功し、これにより海洋環境の変化に強い系統の発見に一歩近づきました。
最後に地元沖縄に深く関わる研究を紹介します。芭蕉布は県内で栽培されるイトバショウを原料とした織物で、昔から着物の生地に用いられてきましたが、サイエンス・テクノロジーグループでは、この芭蕉糸の制作工程を自動化する新たな手法の開発に取り組んでいます。
受賞と功績
今年、OISTコミュニティの複数のメンバーが表彰を受け、名誉ある職に選定されました。4月に天皇皇后両陛下のご臨席のもと日本国際賞を受賞したスバンテ・ペーボ教授(アジャンクト)は、2022年のノーベル生理学・医学賞という栄誉に輝きました。発表後、ペーボ教授がOISTの卓越した研究環境について言及しているのを聞き、大変嬉しく思いました。また、今年OISTの名誉博士号が授与されたアントン・ザイリンガー教授が、他の2氏と共に2022年のノーベル物理学賞を受賞しました。3月には、根本香絵教授が日仏間の研究協力関係の強化に貢献した功績を認められ、フランス国家功労勲章を受章しました。そして私自身も今年、日本学士院の客員に選定していただき、非常に身の引き締まる思いがいたしました。
ヤビン・チー教授は持続可能なグリーンエネルギー開発への貢献が認められ、花王科学賞を受賞しました。また、細胞分子シナプス機能ユニットを率いる高橋智幸教授は、生理学への卓越した貢献が認められ、国際生理科学連合(IUPS)の2022年フェローに選出されました。グレッグ・スティーブンズ准教授(アジャンクト)は、「動物行動物理学という新分野への貢献」により、名誉あるアメリカ物理学会(APS)のフェローに選出されました。OISTプロボストのエイミー・シェン博士はその卓越した功績が認められ、アメリカレオロジー学会のフェローに選出されました。また、ヤビン・チー教授と大野ルイス勝也博士は、2年連続で高被引用論文著者リストに名を連ねています。さらに、ヴィンセント・ラウデット教授とティモシー・ラバシ教授がクマノミをテーマにした海洋科学の新書を出版されましたので、お祝い申し上げます。
学生の活躍を振り返ってみますと、まず、ドミトリー・コバレンスキーさんが日本語弁論大会で「特別賞」を受賞しました。また、アグニーシュ・バルアさんが、分子生物と進化学会の大学院生優秀賞を受賞しました。今年5月には、6名のOIST卒業生がキャンパスを再訪し、博士号取得後の進路について在学生に紹介しました。
チャイルド・ディベロップメント・センター(CDC)の小中学校プログラム(SAP)の子どもたちには、毎月のビーチクリーンへの協力に対して、恩納村の長浜善巳村長から感謝状が贈られました。また、CDCの子どもたちは、アート展を通して平和への力強いメッセージを伝えました。
地域社会への貢献として、リーソースセンターとOIST POWER Clubは、年間を通して数回のチャリティー活動を行い、沖縄の地元の方々に食料や衣類、玩具、生理用品等を寄付しました。また、今年は海上保安庁から、御手洗哲司准教授と第十一管区海上保安本部との協業から生まれた重要な活動に対して、最高の栄誉となる感謝状が授与されました。
皆さんの素晴らしい功績を私たちも誇りに思い、心よりお祝い申し上げます。
アウトリーチ活動
今年、私たちは複数のアウトリーチの機会を通じて、地域社会との距離をさらに縮めることができました。国際女性デーには、STEM 分野の女子や若い女性を後押しすることを目的として「Girls, Be Ambitious!(少女よ、大志を抱け)」という取り組みを開始しました。3月に開催されたHiSci Lab(ハイサイ・ラボ)2022には、沖縄県内の高校から35名の女子生徒が集まり、OISTの女性研究者たちが科学者になるまでの道のりを紹介するワークショップに参加しました。こどもかがく教室には小学1年生から中学3年生までの約200名が参加して、海洋生物の生態から進化の仕組みまで幅広いテーマについて学びました。ブルーエコノミー・チャレンジでは、日本中から集まった学生たちが、海洋問題に取り組む10週間のプログラムに参加しました。また、先月開催されたOISTサイエンスフェスタには、子どもから大人まで約600名が集まり、私たちを取り巻く科学の世界に驚き、科学体験を楽しみました。第77回国連総会における科学サミットにOISTは日本代表として参加し、「科学がSDGsの達成に果たす役割」をテーマに、7つのセッションを関係機関と共催しました。また、今年で11回目を迎えたSCORE!では、沖縄県内の起業家の卵たちがOISTに集結し、自身の好奇心でビジネスや社会の喫緊課題を解決するアイデアを競い合いました。今年初めにForbes JAPANと共同で制作したOISTトークシリーズでは、日本でさらにイノベーションを起こすために必要なことや、クリエイティブな大学教育が社会にもたらす恩恵など、重要な問題について私が学術界やビジネス界の著名なリーダーたちと議論した内容を視聴いただくことができます。
SDGの取り組み
OISTのSDGイニシアティブは2年目を迎えたばかりではありますが、持続可能な未来の実現に向けて志を同じくするメンバーが学内から広く集まり参画しています。この取り組みを通して、この開花しつつある若い大学に新たな機会の数々がもたらされました。今年3月に開催された沖縄サステナブルシティ・サミットには、世界各国からさまざまな関心を持つ参加者が集まりました。持続可能で自立した、未来のレジリエントな小規模都市及びコミュニティの開発に向け、幅広いテーマで議論が繰り広げられました。今年は、国連大学SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)や大学コンソーシアム沖縄のSDGsプロジェクトと連携し、国内の他大学との情報交換や協力体制をさらに拡充することができました。また10月には、東京で開催された日本IBMの設立50周年記念イベントにOISTは招待を受けて参加しました。記念イベントでは講演、パネルディスカッション、展示等が行われ、サステナビリティに焦点を当てながら、未来に向けた科学の可能性を探りました。さらにOISTは、STARS(サステナビリティ追跡・評価・格付けシステム)に参加し、サステナブルなキャンパスの実現に向けてさらなる一歩を踏み出しました。これにより、戦略的優先事項として全面的にサステナビリティを追求する大学の構築に向け、自主的な報告の取り組みを推進できるようになるでしょう。
今年はインタラクティブで人気の高い2つのワークショップが開催され、サステナビリティへの理解を深めることができました。「サステナブルな未来のために何を食べますか?」と題したワークショップでは、日本における植物由来の栄養について学び、「すべての人のためのサステナビリティ」では、サステナビリティについてよくある誤解を解くことができました。また、毎年恒例のSHIMAアウトリーチ活動においては、島嶼生態系や文化の持続可能性について、県内の高校生を対象にワークショップを開催しました。
イノベーション
OISTに全く新しいイノベーション拠点が生まれようとしています。グローバル・バイオコンバージェンスイノベーション拠点は、生命科学、工学、海洋科学、 AI 、複雑系の学際的シナジーを活用しながら、「ワンワールド・ワンヘルス」社会のビジョン実現に向けて取り組んでいきます。この新拠点は科学技術振興機構(JST)の補助事業として進められ、助成金額はOISTがこれまでに受けた交付の中で最大となります。
本事業への採択は、OISTの輝かしい一年を締めくくるにふさわしく、また、地域におけるイノベーション及びアントレプレナーシップの新たな中核としてのOISTの立場を強固にするものです。OISTを核とするイノベーション・エコシステムを構築するために、過去数年にわたって実施してきた取り組みが実を結びつつあるのです
沖縄県の支援の下、2018年に始まった「スタートアップアクセラレータープログラム」には、新たに大阪とコロンビアの起業家2チームが加わりました。また、同プログラムはグローバルなスタートアップ誘致と伴走型支援の提供が評価され、イノベーションネットアワードを受賞しました。今年採択されたチームは大阪ヒートクールとAndaですが、この選抜プログラムはこれまでに、沖縄銀行から助成金交付を受けたHerLifeLab及びGenomeMiner、環境省の「環境スタートアップ大臣賞」を受賞したEF ポリマー等のスタートアップを輩出しています。
また、ライフタイムベンチャーズ社とパートナーシップを結び、新たなベンチャーキャピタルファンドを組成しました。「OIST-Lifetime Ventures Fund」は、ヘルスケア、サステナブルリビング、ブルーエコノミー、仕事の未来に対してソリューションを提供するOIST発並びに世界中から集まるアーリーステージのスタートアップへの投資を行います。
日本で起業するのに今ほど適した時期はなく、世界中の起業家が沖縄を高成長スタートアップのインキュベーション先として選ぶようになることを、私たちは目指しています。
また、将来のスタートアップ創出の基盤となるテクノロジーのパイプラインを強化するため、新たに6件の概念実証(POC)プロジェクトを採択し、これにより技術移転に向けてPOCプロジェクトが支援する研究プロジェクトは合計56件となりました。このうち、RyuDynとWatasumiの2つのプロジェクトについては、大学発スタートアップとしてスピンアウトし、Watasumiはビジネスアイデアを競う「クライメート・ローンチパッド」においてグローバルファイナルまで勝ち進みました。
イノベーションの推進には、テクノロジーや起業家、資金提供とともに、パートナーシップが重要な役割を果たしますが、2022年はOISTにとって、多くの新たなパートナーシップ体制が確立した重要な年でした。
一橋大学との連携を通じて、OISTは初めてMBAの学生をインターンとして受け入れ、サイエンスとビジネスを結ぶユニークな取り組みを行いました。沖縄県内の科学技術産業を支援するために、沖縄産業振興公社との連携協定を通じて、地場企業との連携を強化しました。また、大学初の産業連携プログラム「イノベーション・ネットワーク@OIST」を設立し、初年度、34社の国内企業や多国籍企業が有料会員に登録されました。
また、サントリーとのヘルス&ウェルネス分野における連携や、コランダム・システム・バイオロジーとのマイクロバイオミクスにおける連携、ソニーコンピュータサイエンス研究所とのヒューマン・コンピュータ・インテグレーションなど、ユニークな共同プロジェクトを通じて新たな産学連携の枠組みが生まれました。
OISTは、研究室から生まれるテクノロジーを、最も必要とされる場所、また世界に大きなインパクトを与える場所に技術移転するという重要な使命を、今後もますます強力に推し進めていきます。
コラボレーション
2022年はOISTの連携機関とのネットワークが、県内・国内から海外へと新たな広がりを見せ、この点においても本年は特別な年となりました。2月には、OISTの地元である恩納村の活性化に向けて、重要な新規連携事業として「エコロジカル・スマートリゾート実現プロジェクト」を立ち上げました。この取り組みを通して、私たちは恩納村の美しい海を養殖や観光のために守り、海洋科学の研究を通じて村の知名度向上に寄与できることでしょう。創立70周年を迎えた国際文化会館との緊密な連携は、今年、戦略的パートナーシップの締結により、さらに強固になりました。そして、恩納村、読谷村とは新規に包括連携協定を結ぶことで、これまでの関係をさらに深めることができました。
日本の学術界においてOISTはその地位を確かなものとし、国内の複数の大学と関係を構築しました。慶応義塾大学とは、科学技術の振興に資するあらゆる活動において連携することを目的とし、8月に基本協定を締結しました。京都大学とは、生物医学分野におけるアイデアや知識の移転促進を目的とした共同ワークショップシリーズを開始しました。学術パートナーである東北大学とは、生物多様性や海洋科学に関する共同ワークショップを通じて、研究への好奇心を高め合っています。また、琉球大学、東京大学、大阪大学との連携も引き続き推し進めています。
謝意
2022年はOISTにとって大変素晴らしい一年でした。私にとっては、OIST学長兼理事長としての最後の年となりましたので、とりわけそのように感じました。OISTを率いるという特別な機会を与えていただいたこの6年間は、大変充実した歳月で、私は貴重な経験を積み、素晴らしい人々との出会いに恵まれました。この旅路における皆様からの寛容さ、サポート、そしてパートナーシップに心より感謝申し上げます。
OIST10周年記念コンサートの音楽を聴きながら、どうぞ素晴らしい年末年始をお過ごしください。
近日中に、ここ6年間におけるOISTの発展をまとめた読み物を発表させていただきます。機会があれば是非ご一読いただければと思います。
沖縄科学技術大学院大学
学長兼理事長
ピーター・グルース