Issue 4 2023年4月 インクルーシブ・メンターシップ
今月のトピック:インクルーシブ・メンターシップ
組織において革新性、創造性、卓越性を磨こうとするとき、科学者、教育者、あらゆる職種の労働者を多様化し、育成できるか否かによって大きく結果は異なります。研究機関がこの点で成功するためには、すべてのメンバーが、インクルージョンや公正性に対して常に高い意識をもち、すべての個人が成長できるような風土を育てる責任を負わなければなりません。インクルーシブな育成指導環境は、効果的なチーム作りや、成果をだしやすい連携とコミュニケーションに最も重要なものであり、メンターと育成指導される相手(メンティー)に加えて、続く次の世代にも影響を与え続けます。ここでいう育成指導(メンターシップ)とは、様々な形で実現しえるものです。例えば(弱い立場にある人の)擁護、後押し、積極的な傾聴と継続的なコミュニケーション、同僚によるメンターシップ、共感、学び続ける意欲と姿勢等によってもたらされます。そして、自らがもつ特権や地位・権力を使うことで、偏見により矮小化されてしまっている人々や社会において目立たないでいる人たち・声なき人たちをサポートするために前向きな影響力を発動させることもできるでしょう(Takayama、出版準備中)。インクルーシブな育成指導関係は、指導される相手に自信と帰属意識を芽生えさせます。またそのような関係性は、相手が新しい視点を広げ、コミットメントやコミュニケーション、リーダーシップのスキルを強化することを可能にします。このように、教育機関にとってインクルーシブな育成指導関係を推進することは、『個々のコミュニティ意識の向上』、『生産性の向上』、『現在および将来のリーダー育成』という重要な成果をもたらすのです。
科学的根拠
研究によると、メンターがいたり、教授から学ぶことに多大な喜びを与えてもらった学生は、サポートされていると感じてない学生に比べ、生き生きとし、強い幸福感を持つ可能性が3倍近く高いことが証明されています。効果的な育成指導(メンタリング)は個人の成功への重要なカギとなり、またインクルーシブな育成指導は長いキャリア人生を通して、プロフェッショナルとしての成功に不可欠です。これは、女性やその他の偏見により矮小化されている人々にとっては、なおさら重要です。正式に合意をして決められたメンタリング関係は、非公式なメンタリングよりも効果的であることが研究によって示されています:生産性は正式なメンタリングによって向上し、互いの関係性はそのような状況においてより長く継続し、よりよく保たれます。ところが、職場や研究環境におけるインフォーマルな、つまり「自然な」メンタリングで十分であるという思い込みがひろく蔓延しています。しかし、メンターと指導される相手の二人組(1:1)は効果が低く、力の差が生じる可能性があります。
ピア・メンタリング(訳注:立場の上下がない人同士の相互メンタリング)は、非常に効果的なメンタリングの実践法であり、多様な職業経験や個人的な経験、専門知識、背景を持つメンバーからなる強力なネットワークを構築することによって、長期的な効果をもたらすことができます。ピア・メンタリングサークル(PMC)1は特に効果的で、同僚や仲間のグループが定期的に集まり、職業上の経験、課題、興味、目標に関して意見交換をし、戦略やリソースを共有し議論し、互いに教えあい、そして学び合う同僚的で支持的なコミュニティを作ることを目的としています。PMCは時間をかけて強いコミュニティ意識を確立し、メンバーはキャリアを通じて様々な場面でお互いをサポートし続けます。
今日からできる実践方法
以下は、インクルーシブな育成指導(メンターシップ)のための成功事例です。
メンター向け:
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メンターと指導を受ける相手のパートナーシップの開始時に、明確で現実的なメンタリングの目標と戦略を共創する
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明確で透明性のあるコミュニケーション目標とプロセスを共同で開発する
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建設的なフィードバックを提供する
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互いの役割を共通認識とし、メンター関係の進捗状況を定期的に確認する
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積極的かつ意図的に聞く
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自分の暗黙の(無意識の)バイアスを意識する。
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信頼と尊敬に満ちたオープンなコミュニケーション環境を作る
指導を受ける側(メンティー)向け:
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現実的な目標の設定に積極的に協力する
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コミュニケーションを明確にする
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積極的かつ意図的に聞く
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メンタリングの必要性を確認する
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メンターネットワーク/マップを構築する。
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自分の暗黙のバイアスを自覚する
C-Hubが過去に開催したシンポジウム「Inclusive Mentoring」2もご参照ください。
2023 最優秀メンタリング教員賞について
2023年の最優秀メンタリング教員賞を受賞されたフィリップ・フスニック准教授、名誉褒状を受けたクリスティーヌ・ラスカム教授にお祝いを申しあげます。
この賞は、効果的なメンタリング関係を構築し、生産的でインクルーシブな研究環境を育成するための継続的な取り組みを示したOIST教員を称えるものです。教員担当学監オフィスが主催するこの賞は、OISTの学生、ポスドク研究員、研究スタッフの専門性の向上とキャリアアップにおいて、インクルーシブなメンタリング(育成指導)が果たす重要な役割と、優れたメンターが生涯にわたって与える影響力を評価するものです。
受賞者のコメントや賞の詳細については、Faculty Excellence in Mentoring Awardのページ3をご参照ください。
参考文献と関連書籍
Gallup-Purdue Index (2014). Great jobs great lives. Washington, DC: Gallup, Inc.
Pololi, L. H., & Evans, A. T. (2015). Group peer mentoring: an answer to the faculty mentoring problem? A successful program at a large academic department of medicine. Journal of Continuing Education in the Health Professions, 35(3), 192-200.
Kuhn,, C. & Castaño, Z. (2016). Boosting the career development of postdocs with a peer-to-peer mentor circles program. Nature Biotechnology 34(7), 781–783.
Lee, A., Dennis, C. & Campbell, P. (2007). Nature's guide for mentors. Nature 447, 791–797.
van Emmerik, I.J.H. (2004). The more you can get the better: Mentoring constellations and intrinsic career success. Career Development International 9, 578-594.