Issue 8 2023年11月 ストレスマネジメント
今月のトピック:ストレスマネジメント
世界中でストレスを健康上の主要な懸念事項として報告する例が増えており、31カ国の調査では62%が過去1年間に少なくとも1回はストレスが日常生活に影響を与えたと回答し、39%がストレスのために仕事を休んだと回答しています(Stinson, 2023)。ストレスは、生活環境、家族、お金、時間、人間関係、仕事、将来への不確実性、また世界規模で起きている問題から、暴力・治安、感染症、機会に恵まれないといった地域社会の大きな課題まで、多くの原因から生じる可能性があります(世界保健機構WHO、2020)。ストレスはまた、継続的な主観性からマイクロ・アグレッション、マクロ・アグレッションへと蓄積され、その結果、疾病リスクが増大し、ストレス反応に関与する生物学的システムへの影響を通じて、健康により直接的な影響を及ぼすようになります(Mays et al.)。ストレスを最小限に抑える絶対的な解決策はないものの、一人ひとりが自分自身に特定したニーズを理解し、自らをサポートする習慣や条件を作り出すことができるのです。
科学的根拠
ストレスは、脅威に対する闘争、逃走、凍りつきの反応として、我々の初期の先祖の時代に発達したもので、私たちが素早く反応し、警戒を怠らないための一連の生理的反応です。その中にはストレスホルモンの急激な上昇や、心拍数の増加や筋肉の緊張といった反応が含まれ、こういった反応は気づかないうちにほとんど瞬時に起こっているのです(Harvard Health Publishing, 2020)。
これは私たちが生き延びるための有用なメカニズムですが、私たちの脳は、交通渋滞や職場での衝突など、ストレスはあるが命に別状はない状況に置かれたときにも、この生理的反応を活性化させています。これが、高血圧、筋肉痛、不安、抑うつといった慢性的な健康への影響につながっているのです(同書)。大学という環境では、学業や仕事上のプレッシャー、課外活動参加の必要性、家族の期待、自尊心などの要因から、ストレスの頻度やそれに伴う抑うつや不安の状態が高い(Asif et al. 2020, Jayasankara Reddy et al. 2018)と言われています。
不平等が蔓延る社会において、過小評価されたアイデンティティを持つ人々にとって、ストレスの影響はより拡大します。例えば、女性はストレスが人生に影響を与えていると報告する傾向が強い(Stinson, 2023)との報告があります。ストレス反応が繰り返し起こることで、時間が経つにつれて身体は疲弊し、さらに日々の不公正(Geronimus et al., 2006)やマイクロアグレッション(Sue et al., 2007)に耐えるという「努力の多い対処法」は、アロスタティック負荷(allostatic load)と呼ばれ健康と身体機能の累積的悪化につながり、これは人種、ジェンダー、性的指向、貧困による不平等を経験している人々に対して、明らかに不均衡な影響を及ぼしている(Geronimus, 2023)ことが分かっています。
集団全体の健康を促進するためには組織的な変化が必要ですが、ストレスに対処するために個人レベルでできる行動もあります。ストレスの弊害を軽減するためには、味方となるアライや指導者も非常に重要な存在です。
今日からできる実践方法
その場でのストレス解消法
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自分自身に『地に足がついた感覚(grounding)』を認知させるために、自分が心で感じとっている感情や気持ちに気づき、その状態に名前をつけ、そして自分の身体で感じていることとリンクさせてみましょう。世界保健機関(WHO)のこのガイド(2020年版)は、図解入りで説明1をしています。
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休憩を取る。たとえ厳しい締め切りに追われていたとしても、脳に休息を与えることでストレスが調整され、パフォーマンスが向上することが研究で明らかになっている。(Rees et al., 2017)
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早足で歩くなどして体を動かす。
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外に出る。自然の景色を楽しむことはストレスを調整するのに役立つ。
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あなたを笑わせたり、安らぎを感じさせたりしてくれる人たちと時間を過ごし、本当の自分でいられるようにする。
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アライ(味方でいる人)ができること:アライシップ、マイクロインターベンション、マイクロアファメーションを実践し、継続的なマイクロアグレッションにさらされている人々をサポートする(マイクロアグレッションへの対処に関するC-Hubのワークショップにご期待ください)。
継続的な解消法
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健康的な食事、運動、十分な睡眠など、長期的にあなたをサポートするシステムや生活習慣を作る。
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身近な友人・知人、家族や職場などの信頼できる人に、これらの習慣を維持するために、決めたことを守るチェック機能を果たしてもらうよう依頼する。
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気が散ったり、ストレスの原因となるニュースに触れる機会を減らすため、ソーシャルメディアやEメールの通知をオフにする。それでもチェックしたい場合は、1日に1、2回だけチェックする時間を作るようにしましょう。
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自分のコントロールが及ぶ範囲を確認する。世界で大きな悲劇が起こると、ストレスや無力感にさいなまれることがありますが、自分がコントロールできることを特定し、自分の価値観に沿った行動をとることで、感情を調整することができます。(世界保健機関 WHO, 2020)
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慣れ親しんだ文化や地元への密着を中心に据えたストレス軽減法の実践は、長くその地方に暮らす(先住民)グループやマイノリティに属する人々にとっては、文化的な連続性やつながりをさらに刺激することで、西洋的な(輸入された)解消方法よりも効果的である可能性がある(Aker et al., 2023; Auger, 2016; Kirmayer et al., 2003)
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好きなことを見つけ、それに時間を割く。ポジティブなエネルギーを補給することで、長期的に回復力を維持することができる。
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専門家のカウンセリングやセラピーを受ける。自分の経験を処理し、専門家と語り合う継続的な場を持つことは、心の健康を維持する最善の方法のひとつです。
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参考文献
Aker, A., Serghides, L., Cotnam, J., Jackson, R., Robinson, M., Gauvin, H., Mushquash, C., Gesink, D., Amirault, M., & Benoit, A. C. (2023). The impact of a stress management intervention including cultural components on stress biomarker levels and mental health indicators among indigenous women. Journal of Behavioral Medicine. https://doi.org/10.1007/s10865-023-00391-0
Asif, S., Muddassar, A., Shahzad, T. Z., Raouf, M., & Pervaiz, T. (2020). Frequency of depression, anxiety and stress among university students. Pakistan Journal of Medical Sciences, 36(5), 971–976. https://doi.org/10.12669/pjms.36.5.1873
Auger, M. D. (2016). Cultural Continuity as a Determinant of Indigenous Peoples’ Health: A Metasynthesis of Qualitative Research in Canada and the United States. International Indigenous Policy Journal, 7(4). https://doi.org/10.18584/iipj.2016.7.4.3
Finkbeiner, K. M., Russell, P. N., & Helton, W. S. (2016). Rest improves performance, nature improves happiness: Assessment of break periods on the abbreviated vigilance task. Consciousness and Cognition, 42, 277–285. https://doi.org/10.1016/j.concog.2016.04.005
Geronimus, A. T. (2023). Weathering (1st ed.). Little, Brown Spark.
Geronimus, A. T., Hicken, M. T., Keene, D. E., & Bound, J. (2006). “Weathering” and Age Patterns of Allostatic Load Scores Among Blacks and Whites in the United States. American Journal of Public Health, 96(5), 826–833. https://doi.org/10.2105/ajph.2004.060749
Harrell, J. P., Hall, S., & Taliaferro, J. (2003). Physiological responses to racism and discrimination: an assessment of the evidence. American Journal of Public Health, 93(2), 243–248. https://doi.org/10.2105/ajph.93.2.243
1: https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/331901/9789240003910-eng.pdf?sequence=1