研究内容

研究目的

記憶研究ユニットは記憶がどのように記銘、想起、固定されるのかを理解しようとしています。記憶のこうしたプロセスにおいて、海馬が独自の役割を果たしていることが数多くの実験的証拠から示され、動物の外部および内部状態についての情報が海馬内でどのように処理されているのかを提示する数多くの理論的研究が行われてきました。それにも関わらず、海馬が記憶を実現している具体的なメカニズムははっきりしません。私達ユニットの目的は、記憶における海馬の役割の包括的な知見を得ることです。

研究方法

この目的のため、電気生理学的手法(テトロード電極など)やCa2+イメージングを用いて自由に行動するマウスの脳から一つ一つの神経細胞の活動を記録します。同時に、遺伝学的手法(特定細胞の標識やその活動の操作、神経ネットワークのトレースなど)と行動実験を組み合わせるという、多面的なアプローチを取ります。

Microdrive and tetrodes
Recording from the dorsal hippocampus

A miniature microscope

 

Calcium transients in the dorsal CA1 (5x speed)

Genetic labelings in the hippocampus

プロジェクト

私達は現在、海馬が表現する情報の多様性とその動的な性質に着目しています。近年の研究により、海馬に作られる記憶の痕跡は一元的ではなく、むしろ多様性に富んでいることが分かってきました(例、Nakazawa et al., Hippocampus 2016; Tanaka* et al., Science 2018)。さらに、海馬が表現する空間情報も数日や数週間といった長期間にわたる時間的尺度では、不安定であることが報告されています(Ziv et al., Nature Neuroscience 2013; Hainmueller and Bartos, Nature 2018; Tanaka* et al., Science 2018)。これは、海馬の記憶痕跡は空間情報を保存しているとする見方とは合致せず、海馬の役割についての考え方は見直される必要があります。

私達は、記憶の記銘・想起・固定における多様な記憶の痕跡それぞれの役割を、その生理学性質や回路から明らかにすることを目指しています。