N95-electrocharged filtration principle based face mask design using common materials

著者:マヘッシュ・バンディ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)非線形非平衡物理学ユニット

本ページはオープンアクセス情報であり、だれでも自由に利用できます。

日本語版は試訳であり、英語版を原本とします。

進行中のCOVID-19パンデミックにより、ウイルスからの保護用のフェイスマスクの使用が必要になっています。現在、多くの国では、個々人に公共の場所でのフェイスマスクの着用を義務付けています。しかし、フェイスマスクが店頭から姿を消し、手作りの布マスクが必要になっています。一方、自家製の布製マスクもほとんどの市販のマスクもCOVID-19ウイルス粒子をフィルターできません。COVID-19ウイルス粒子を阻止できる唯一の利用可能な設計となっているのがN95マスクです。これは、数百ナノメートルレベルでエアロゾル液滴、ウイルス粒子、およびバクテリアを誘引・トラップできる帯電層が含まれているためです。残念ながら、この帯電ポリマー層は、一般的に入手可能な材料を使用して複製するのは多少難しい(不可能ではない)工業的に洗練されたエレクトロスピニング法によって製造されています。

このページでは、OIST学内で開発した、一般に入手可能な部品を使用してこの帯電層を製造するプロセスと、フェイスマスクを構築するための基本的電気回路の知識について詳しく説明しています。

私たちのテスト(詳細は以下)は、フェイスマスクのデザインが自家製の布製マスク、市販のPM2.5フィルターマスク、サージカルマスクよりも優れていることを示していますが、以下に説明するいくつかの理由により、N95マスクのレベルまでの機能には達していません。このフェイスマスクのデザインは、NIOSHなどの関連機関によるテストや認定を受けていません。またこのマスクデザインは、現状のまま保証なしで提供するものとなります。

N95フィルター原理

フェイスマスクフィルターメカニズムは、2つの競合する要件において、最適化する必要があります。マスクフィルターは、粒子をトラップするのに十分な小さい細孔サイズである必要がありますが、細孔サイズが小さすぎると装着者の呼吸も妨げられるため、マスクフィルターは特定の平均細孔径を下回ることはできません。この最適化要件を満たすために、N95マスクは基本的に3つの原則で作用します(下の図1を参照)。

1)慣性衝突:エアロゾルまたはダスト粒子は通常、1ミクロン以上のサイズで十分な慣性があり、フィルター層の繊維の周囲を流れ、マスク材料に衝突してブロックされます。

2)拡散:慣性の影響を受けない1ミクロン未満、通常0.1ミクロン以下の粒子は拡散し、フィルター繊維の曲がりくねった多孔質マトリックスの周囲をブラウン運動する間にフィルターの繊維層に付着します。

3)静電引力:このメカニズムは、帯電したポリマーまたは樹脂繊維を使用して、大小の反対に帯電した粒子を引き付け、トラップします。

図1:N95マスクが利用する3つの原則の図。(a)2006年の全米アカデミーズ出版報告では、3つの段階を詳述しています(図のクレジット:Institute of Medicine 2006. インフルエンザパンデミック時のフェイスマスクの再利用可能性:対インフルエンザ ワシントンDC:全米アカデミープレス。https ://doi.org/10.17226/11637。)(b)CDCウェブページには4つの原則が記載されていますが、慣性衝突原理の中でCDCによってリストされた遮断原理を含みます(画像提供:CDCウェブページ https://blogs.cdc.gov/niosh-science-blog/2009/10/14/n95).

布や市販のフェイスマスクは、手間をほとんどかけずに第1と第2の原則を達成できます。第3原則である静電吸引は、N95マスクを他のフェイスマスクと区別するいくつかの設計機能の1つです。帯電したフィルター層の作製は簡単ではありません。

帯電フィルター

私たちは、特に周囲の湿度が低い寒冷気候での一般的な経験から、2つの布を互いに摩擦させると静電気を帯びることを知っています。これは一般に摩擦帯電と呼ばれる現象です。ウールや綿などの粗さの高い天然繊維から織られた布や、ナイロンなどの合成布でさえ、摩擦により静電気を帯びます。帯電した繊維を利用してフィルター機能を助けるという考えは、数十年前にさかのぼります(たとえば、Edward R. Frederick(1974)による簡単なレビューを参照してください)繊維フィルターにおける静電気の影響、Journal of Air Pollution Control Association、23、1164。 DOI:10.1080 / 00022470.1974.10470030)。実際に、帯電フィルターを組み込んだいくつかの初期のフェイスマスクの設計では、ウール繊維またはフェルト繊維を使用していました。しかし次第に、エレクトロスピニング法で製作されたポリマーファブリックは、フェイスマスクデザインの帯電層の主力材料になりました。

エレクトロスピニングされたポリマー材料は、エレクトロスピニング(電界紡糸)と呼ばれる方法で製造されます。これは、ポリマーナノファイバーを生成するために広く使用されているプラットフォームです。この方法では、高粘度の溶融ポリマーが小さなオリフィス(開口部)から押し出されます。溶融ポリマーを保持するオリフィス(開口部)を備えた金属製の容器(これをエミッターと呼びます)は正に帯電し、離れて配置された平板またはドラムは負に帯電します(これをコレクターと呼びます)。溶融ポリマーがエミッターのオリフィスから押し出されると、正に帯電した溶融ポリマーが飛び出し、負に帯電したコレクターに向かって引き寄せられ、エミッターとコレクターの間の距離において急速に冷却され、電気的に帯電したポリマーナノファイバーになります。この産業用エレクトロスピニング法は、通常、日常的には使われません。

研究室の環境と産業用の環境の両方で電界紡糸法を説明する多くのYouTubeビデオがあります。ここには、皆さんの理解を助けるいくつかの動画を紹介しています。これらはYouTubeで最初にヒットしたもので、これらのリンクを他のリンクよりも優先して選択した特定の理由はありません。

注:工業用または学術用のラボのエレクトロスピニング法を我々が保証するものではありません。

https://www.youtube.com/watch?v=hlHUVJkDuNo

https://www.youtube.com/watch?v=Dn6r1Ag1npE

https://www.youtube.com/watch?v=x0VFeMTSIb4

https://www.youtube.com/watch?v=PJWMtdaYxi8

https://www.youtube.com/watch?v=6hRv7m1MOC0

https://www.youtube.com/watch?v=OIUSSUWhXhM

溶融ポリマーのエレクトロスピニングの原理を以下の図2に示します。

図2:エレクトロスパン・ポリマーナノファイバー製造メカニズム図。粘性流体の形体の溶融ポリマーは、通常は電動シリンジポンプであるEMITTER(エミッター)として示されているオリフィス(開口部)から押し出されます。オリフィスから離れた距離に金属板が置かれています。シリンジポンプの金属製の針はプラス端子に接続され、Collector(コレクター)は、通常数十キロボルト程度の高電圧源のマイナス端子に接続されます。粘性のある溶融ポリマーがシリンジの針の開口部から押し出されると、エミッターとコレクターの間の電場が液滴を強制的に延伸させ、延伸と冷却を同時に引き起こさせるとともに、ポリマーナノファイバーとしてコレクタープレート上に堆積します(図では赤いスパイラルとして示されています)。この急速に伸びて冷却するポリマーは、図に青い破線で示されている有名なテイラーコーン(Geoffrey Ingram Taylorにちなんで名付けられた)として知られる円錐形状で吐き出されます。

綿菓子製造機でエレクトロスパンポリマーファブリックを製造

一般的に入手可能な部品を使用してエレクトロスパンポリマー・ファブリックを生成する簡単な方法は、綿菓子製造機を少し改造することです。私たちは皆、綿菓子製造機が動作する基本原理を知っています。

1)ドラムがあり、その中央には砂糖3と水1を入れる高速回転容器が置かれています。私たちがEMITTERと呼ぶこの容器は、砂糖を粘稠な液体にカラメル化するために、摂氏約160〜175度に加熱されます。

2)高速回転容器には小さな穴があり、そこから粘性のあるキャラメル化した砂糖が流れ出し、遠心力によって粘性のある砂糖の滴が砂糖の細いナノ結晶繊維に引き伸ばされ、棒で綿菓子の形に集めます。

3)では、これに少し変更を加えまましょう。電圧源を使用して高電圧電界(12〜24ボルトの範囲で作業)をセットアップするとします(下の図3を参照してください)。

図3:大きな円筒形のドラム(COLLECTORと呼ばれる)で構成された綿菓子製造機のイラスト。中心には加熱された容器(これをEMITTERと呼びます)があり、通常は湿った砂糖(砂糖3+水1の割合 好みで食品着色料)。容器を毎分数千回転させ、粘性のあるカラメル化糖液がエミッターの穴から出だすと、遠心力がカラメル化糖液の液滴を飛散させ、その過程で液滴を薄い結晶性ナノファイバーに延伸させます。エミッターとコレクターの間に大きな電場(12〜24ボルトのオーダー)をかけます。砂糖を溶融ポリマーで置き換えることにより、自宅で簡単な部品を使用して構築できる高スループットのエレクトロスピニング(電界紡糸)システムが実現します。 

4)マスクの繊維を作製するためには、砂糖の代わりに、粉末状のポリプロピレンポリマーを注ぎます。ポリプロピレンのプラスチックボトルを細かく切り、高出力ブレンダーに入れて、粉末状のポリプロピレンを作製した後、毎分数千回の回転をさせれば、エレクトロスピニング(電界紡糸)されたポリマーの生成が開始されます。そしてコレクターの表面に帯電したナノファイバーで構成される繊維を収集できるのです。 

注:摂氏160度でのポリプロピレン(または他のプラスチック材料)の溶融および噴出プロセスは、ほとんどの生物学的材料(特に細菌、真菌、ウイルス)を不活性化する可能性があります。ただし、オートクレーブでは通常、同等の温度(摂氏160〜190度)で15〜120分のドライサイクルで運転されます。互換性のある材料の場合、滅菌は通常摂氏120度でしかも、かなり高い圧力(100 kPaなど)のウェットサイクルで行われます。蒸気は細胞を開いて破壊し、タンパク質と核酸を不可逆的に変性させるのに役立ちます。ところが、ブレンダーを通過した汚染されたボトルのポリマー粉末を急速に溶融しても、潜在的な汚染物質の感染性が100%破壊されることはなく、結果として得られる材料を顔の保護に使用する場合は、特に懸念されます。そのため、プラスチックを圧力鍋に入れて20分程度強蒸気にさらしてからフードプロセッサーに入れて粉末状にすることをお勧めします。

5)私たちは単純な理由からポリプロピレンを使用しました。市販されている標準的な綿菓子製造機の加熱温度は160〜175度です。ポリプロピレンの融点は160℃です。したがって、綿菓子製造機は発熱装置の部分を変更する必要がありません。また、ポリスチレンやポリエチレンなどの他のプラスチック長鎖高分子材料(PETボトルなど)も自由に使用できます。融点や印加電界などのパラメータのいくつかは、使用する材料によって確かに異なりますが、試行錯誤によって容易に理解できるものであり、ロケット科学とは異なり簡単です。

6)さらに簡単な方法としては、ポリプロピレンを有機溶媒(アセトンなど)に溶解することが考えられますが、アセトンは一般的に入手できる材料ではないと考えました。

7)さらに、綿菓子製造機に設置できるプラスチック製のカバーがあったため、それに穴を開け、アルバックの真空ポンプに接続されたパイプを突き刺してチャンバーを真空にしました。さらに、パテやパン生地などを置くことで、カバーと容器を密閉しました。これは単に、回転式ジェットエレクトロスピニングシステムでのエレクトロスピニングプロセス中に、環境を清潔に保ち、粉塵のない状態を保つために行いました。OISTで研究用のエレクトロスピニングシステムによく利用する部品を装備した装置です。ほとんどの人にとって、少なくとも住宅環境において、真空ポンプを使える機会がないことはわかっていますが、もし読者が大学のラボにいる場合、この簡単なアイデアを利用して、エレクトロスピニングを確実に行えます。ポリマーナノファイバーは、セミクリーンルーム条件で製造されます。いずれにしても、真空ポンプは必須ではありませんが、役には立ちます。下の図4の簡単なイラストを参照してください。

図4:改造した綿菓子製造機に(必須ではないが)真空ポンプを取り付けたイラスト

7)綿菓子製造機をお持ちでない場合は、一般的に入手可能な最小限の部品を使用して独自のセットアップを行うためのDIYビデオがいくつかあります。ここにいくつかのDIYのyoutubeビデオリンクを紹介します。繰り返しになりますが、YouTubeですぐにヒットするリンクを含めました。他のリンクよりもこれらを選択する特別な理由はありません。繰り返しますが、注意:特定のDIY綿菓子製造方法を推奨するわけではありません。

https://www.youtube.com/watch?v=KN7Ac5Le434

https://www.youtube.com/watch?v=04oBgUyIr8I

https://www.youtube.com/watch?v=qYubkFzl0F8

https://www.youtube.com/watch?v=kk_2O8w1Uec

https://www.youtube.com/watch?v=7KpXkrtwc_Q

https://www.youtube.com/watch?v=s7E28_sJoEI

https://www.youtube.com/watch?v=7Dn47kO2p6E

改造した綿菓子製造機

私たちは幸運にも、プロ用の大きな綿菓子製造機(パラゴンクラシック綿菓子製造機)を見つけることができました:https://www.amazon.com/Paragon-Classic-Floss-Cotton-Machine/dp/B005C9GT5O/ref=sr_1_1?dchild=1&keywords=Paragon+Classic+Floss+Cotton+Candy+Machine&qid=1586409734&sr=8-1 )。高電圧電界源でショートしてしまうこと避けるため、エミッターとコレクターを厚いテフロンディスクで絶縁する必要がありましたが、それ以外は、高電圧接続をできるようにマイナーな変更を加えた後、非常に迅速に作業を開始しました。

注:エレクトロスピニングプロセスは、ポリマーの水滴をエミッターからコレクターに加速させるために高い直流電圧を使用します。綿菓子製造機を改造し行っているこのロータリージェット法は、遠心分離による機械的加速を利用しています。当初我々は、この詳細な、しかし重要な事実に気づいていなかったのですが、使用していた綿菓子製造機がヒートアップし、ポリマーナノファブリックをコレクターのドラムから取り出す前にまた溶かしてしまうことに気づきました。従って、(当初このページに14〜40キロボルトと示していましたが、)直流12〜24ボルトの電圧源でプロセスを行うことができることについて、お詫びして修正し、全体の記述も一部修正しています。

母材にはポリプロピレンパウダーを使用し、従来のシリンジ注入エレクトロスピニングプロセスよりもはるかに高いスループットでエレクトロスピニングポリマーナノファイバーをすばやく入手しました。毎回、数十グラムのポリプロピレン材料を使用し、結果として得られた電界紡糸ポリマーナノファイバー材料は、ドラム(COLLECTOR)の内壁に集まり、それらをハサミで簡単に切断し、2つの厚いガラスプレートの間に挟み、多孔質布シートを作製しました。

自家製の帯電ポリマー生地の基本的な特性

エレクトロスピニング法で製作されたポリマーナノファイバー・ファブリックでいくつかの特性テストをしました。以下詳細:

1)2つのサンプルの走査型電子顕微鏡写真を以下に示します。1つはOIST学内で準備したサンプルから、もう1つは市販のN95マスクからのものです。構造的な違いはなく、改造された綿菓子製造機で製造したサンプルは、市販のものと同じように数十ナノメートルにまで細かいものとなっています。どちらがどちらであるか、ここではタネを明かしませんから、ご自身で考えてみてください。あなたが専門家の訓練された眼を持っていれば、OISTで作製したものと市販グレードのN95の走査型顕微鏡写真を、50ミクロンと20ミクロンのスケールで区別できるかもしれませんが、そうでない場合、以下の図5から9では、どちらか区別できないでしょう。

図5:OIST製および市販のN-95帯電層サンプルの1 mm解像度の走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真画像。2つのサンプル間に識別可能な構造上の違いがないことを示しています。(aとbの)どちらがOIST学内のもので、どちらが市販のN95サンプルであるかを敢えて明示しません。 

図6:500ミクロンの解像度でのOIST製および市販のN-95帯電層サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真画像。2つのサンプル間に識別可能な構造上の違いがないことを示しています。(aとbの)どちらがOIST学内のもので、どちらが市販のN95サンプルであるかを敢えて明示しません。  

図7:200ミクロンの解像度でのOIST製および市販のN-95帯電層サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真画像。2つのサンプル間に識別可能な構造上の違いがないことを示しています。(aとbの)どちらがOIST製のもので、どちらが市販のN95サンプルであるかを敢えて明示しません。

図8:50ミクロンの解像度でのOIST製および市販のN-95帯電層サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真画像。2つのサンプル間に識別可能な構造上の違いがないことを示しています。(aとbの)どちらがOIST製のもので、どちらが市販のN95サンプルであるかを敢えて明示しません。

図9:20ミクロンの解像度でのOIST製および市販のN-95帯電層サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真画像。2つのサンプル間に識別可能な構造上の違いがないことを示しています。(aとbの)どちらがOIST製のもので、どちらが市販のN95サンプルであるかを敢えて明示しません。

2)50ナノメートルの蛍光コロイド粒子を、30リットル/分(通常呼吸の風速)および85リットル/分(呼吸が上昇した場合の風速)で、材料を気流に当てました。厚さ500ミクロンのエレクトロスピニング法で製作された帯電ポリマーファブリックの材料において、粒子をトラップするのが共焦点顕微鏡で確認されました。比較として、COVID-19ウイルス粒子は、50〜200ナノメートルの間の直径を持っていると推定されています。COVID-19ウイルス粒子の直径の数値を取得した最近の出版物の一部を、参考のために以下に列記します。

70 - 90 nm diameter according to this source: Jeong-Min Kim et al. Identification of Coronavirus Isolated from a Patient in Korea with COVID-19, Osong Public Health Res. Perspect. 11, 3-7 (2020).

50 - 200 nm diameter according to this source: Nanshan Chen et al. Epedimiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study,   , 395, 5017-13 (2020).

 私たちの手元にある50ナノメートルのコロイド粒子Ergoは、COVID0-19ウイルス粒子の推定直径の下限にあたります。

次なる問題は、COVID-19ウイルス粒子(推定直径が50-200ナノメートル)はOISTによって製造されたものであれ、商業的にN95フェイスマスクメーカーで製造されたものであれ、帯電したポリマー層に引き付けられる表面電荷を持っているかどうかです。この質問に対する答えは、OISTの生体分子電子顕微鏡解析ユニットのマティアス・ウルフ准教授が以下のように述べています。 

「正味電荷は、表面に露出した電荷の合計によって決定され、表面のタンパク質構造から計算できます。」

ただし、帯電したフィルターでウイルスを捕獲したい場合、2つの小さな問題があります。

  • 新型コロナウイルスは、私たちの知る限り、空中を浮遊しているわけではありません。ほとんどのエンベロープウイルスと同様、水和または溶液状態です。実際には、エアロゾルの液滴によって伝染し、脱水されると、脂質膜が崩壊し、(温度などによっては、特定の時間内に)タンパク質が変性、すなわち非アクティブになります。
  • 溶液中のタンパク質の正味電荷(通常、水)はpHに依存します。すべてのアミノ酸にはpKa(酸解離定数の対数)があり、これは電荷が平衡化されるpH(正味中性)を示す平衡定数です。化学基ごとにpKa値があり、pHがpKaよりも低い場合、アミノ酸は(可能な場合)プロトン化されます。低pHでは、正に帯電した陽子が豊富に存在します。一部の酸でさえ、低pHでプロトン化する可能性があります。

配列およびウェブ上のツールを使用して溶媒のpHを提供することにより、線形ペプチドの正味電荷を概算できます(例:http://protcalc.sourceforge.net/)。ただし、これは構造が3Dで折りたたまれ、一部の電荷が内部に隠されていることを考慮していません。これは大まかな値ですが、内部に埋め込まれた残留物は、多くの場合疎水性(つまり、帯電していない)であるため、大まかに言えば問題ありません。

折りたたまれたタンパク質構造の正味電荷とそれらの表面電荷分布を計算するためにオンラインで利用できるいくつかのツールがあります。例えば、DELPHI http://honig.c2b2.columbia.edu/delphi 

等電点pIは、正味電荷が中性となるpHです。pIより下では、正味の電荷は正であり、上では負です。B. MichenおよびT. Grauleによる参考文献、「ウイルスの等電点」、J. Appl. Microbiology 109、388-397(2010)では、ウイルスの特徴のいくつかの例を挙げています。それらのウイルスのpIのほとんどは7未満であり、ほとんどのウイルスが中性pHで正味の負に帯電することを示唆しています。

新型コロナCOVID-19ウイルス粒子もまた負の帯電であると考える人もいるでしょう。新型コロナウイルスの主な表面タンパク質は、スパイクタンパク質(S)です(例:http://www.rcsb.org/structure/6VXX)。グリコシル化されているため、シアル酸のように荷電可能な糖に化学的に結合したアミノ酸(主にアルギニン)がいくつかあり、全体的に負電荷に寄与します。

スパイク6VXXのシーケンスをhttp://isoelectric.org/calculate.phpに入力すると、pI = 5.8となるため、正味電荷は負となります。

3)湿った状態(呼気による)での帯電ファイバーの静電気減衰もテストしました。帯電層は5時間以上で減衰しました。

綿菓子製造機で作る帯電ポリマー材料に基づくマスク設計

帯電したポリマーナノファイバー材料が手元にあれば、残りのプロセスは非常に簡単で、この材料からマスクを作製する方法はいくつかあります。私たちの場合、以下の手順に従いました。

1)12〜24ボルトDCでエレクトロスピニングされたポリマーファイバーの3バッチごとに、ゼロ電界でエレクトロスピンポリマーファブリックの2つのバッチを外部ファブリック材料として製造しました。

2)エレクトロスピニングされたポリマー繊維の各バッチは、コレクターの内面から取り出し、通常の(清潔で消毒された)ハサミで長方形のシート状に切断しました。

3)このシートを、実験室にある2枚の清潔で消毒された厚さ1 cmのガラスプレートの間でプレスし、繊維の生地を得ました。生地を平らにするためには、消毒した平らな2つの表面を持つもので上から重い負荷をかければ、うまくいきます。

4)次に、材料を次のように5層にしました。

     -レイヤー1:ゼロ電界ポリマーファブリック。

     -レイヤー2-4:高電界(12-24V DC)ポリマー生地。

     -レイヤー5:ゼロ電界ポリマー生地。

5)次に、層状材料を6cm×6cmの正方形片に切断しました。そして、この正方形の材料の寸法2cmと4cmの点で折り曲げて層状にして、下に示す市販のフェイスマスクのような寸法3.5cm x 6cmの5層シートを作成し、縫い合わせました。

図10:(a)折り目が付いた市販の布製マスク。顔に着用すると拡大され、ここで(b)に示すように、手で広げることで折り目が現れます。

縫い目を含まない、はるかにエレガントで実装が簡単なデザインが、Farhad Manjooによるもので、ニューヨークタイムズからオンラインで入手できます。レイヤードマテリアルを使用したFarhadのデザインも同様に機能しますhttps:///www.nytimes.com/2020/03/31/opinion/coronavirus-n95-mask.html

最終的な詳細:重要

ここで、フェイスマスクの設計で実現できることと実現できないことの一覧を提供します。

1)予備的かつ迅速な特性評価に基づき、OISTで製造された帯電ポリマーナノファイバーファブリックがコロイド粒子を直径50ナノメートルまでブロックできることはわかっています。これは、マイクロエアロゾルの液滴、バクテリア、ウイルスに対する保護を提供する可能性があることを示唆しています。ただし、バクテリアやウイルスに対するテストは行っていません。

2)湿度テストに基づいて、OISTで作製した帯電層は、高湿度により、または約5時間単純に呼気した場合でも、湿度によって劣化することがわかっています。したがって、私たちのデザインは、使い捨て用にのみ適しています。

3)市販のNIOSH認定のN95マスクには、単純な設計では提供できないいくつかの機能が付属しています。まず、NIOSHでテストされたN95マスクは、特にフィットするように設計されているため、マスクの周囲と皮膚の間の隙間における空気の出入りがありません。私たちの設計したマスクには明らかにマスクと皮膚の間に隙間があり、その基準を満たすことができません。NIOSH認定のN95で利用可能な追加の設計機能には、私たちが現時点では持ち合わせていない技術の幅および、現時点で掘り下げる時間もないさらなるエンジニアリングが必要です。

4)NIOSH認定のN95マスクには、(話す相手に応じて異なりますが)素晴らしい機能も組み込まれています。装着者が呼吸しているときに呼気を遮断する呼気弁です。空気はフィルター層を通して吸い込まれますが、呼気は弁から出るので、マスクの帯電した層は湿度により劣化しません。ただし、感染した個人がN95マスクを着用している場合、呼気弁は近隣の個人がウイルス粒子を捉えてしまうのを保護しないため、この点において私たちは警告したいと思います。誰かこれについて考えている方はいらっしゃるのでしょうか?

結論: 帯電ポリマーナノファイバー・ファーブリックを自宅でできるようにしたシンプルな設計と、入手可能なデザインで製作したこのマスクは、帯電フィルターがついているため、図10に示すような市販のPM2.5マスクやサージカルマスクよりも優れています。一方、私たちのデザインには、N95マスクが備えている重要なデザイン機能(フィット性や呼気バルブなど)がいくつか欠けています。

謝辞

走査型電子顕微鏡、OISTイメージングセクション、共焦点顕微鏡の支援については石津範子氏とOISTのNanofabチーム、ウェブページの修正についてのリアルタイムの支援についてはOISTデジタルサービスセクションのマイケル・クーパー氏とクリス・ウー氏に感謝します。4時間以内でこのようなWebページを作成できました。

他にも参照させて頂き、ここでは引用する時間がなかった方々や研究があることに心からお詫び申し上げます。本プロジェクトの準備段階で調査したすべてのリファレンスは、私のgoogleドライブフォルダから使用できます。これらは次のリンクからアクセスできます:https://drive.google.com/open?id=1j1aeymp2H7sAelLau9RHqMYnGGAZO032