ゲノム・遺伝子制御システム科学ユニット (ニコラス・ラスカム)

ニコラス・ラスカム

ゲノム・遺伝子制御システム科学ユニット

ニコラス・ラスカム 教授

luscombe at oist.jp

 

研究

生物細胞は、細胞内外の多様な刺激を認識し、その刺激に適切に応答しなければならない。転写制御システムは、特定の遺伝子を適切なタイミングで正しく確実に発現させることにより、多くの生物学的プロセスの制御に大きな役割を果たしている。その役割は、細胞周期の進行、細胞内の代謝的および生理的バランスの維持から、細胞の分化と発生の経時変化まで極めて多岐にわたる。数多くの疾患はこの制御システムの破綻によって引き起こされ、ヒトの発達障害の3分の1は転写因子の機能障害に起因するとされている。現在ではさらに、転写因子の活性および制御特異性の変化は、種の多様性や進化的適応の主たる要因として位置付けられている。実際に、制御システムの高度化が、後生動物出現の主要条件であったと考えられている。

転写制御に関する基礎的な知識の大部分は、分子生物学的研究と遺伝学的研究によって得られてきたものである。この10年間で、ゲノム配列が利用可能となりまた新たな実験手法が開発されるにつれ、制御システムの機能と全体構造に関する情報が過去にないスケールで得られるようになり、今後も増え続けると考えられる。現在ではゲノム研究により制御システムを生体全体の観点から検討することができる。しかし、得られた知見は予期せぬものも多く、遺伝子発現制御に関する見解をますます複雑にしているようにも見受けられる。

増え続ける生物学的データから、多くの興味深い研究課題に対する解答を見つけ出すには、コンピューターによる計算手法を活用する必要がある。計算生物学とゲノミクスを組み合わせることにより、多くの異なる生物学的システムに適応できる一般原理を見出すことが可能となる。そうすれば、各生物学的システム固有のあらゆる特徴を、この大きな一般原理の一部として理解することが可能となる。

我々の研究グループは、(1)転写を制御する機序、および(2)この制御システムが生物学的に興味深い現象を制御する機序をゲノムスケールで理解する研究を行う。これまでの研究の大部分は、純然たる計算的な手法に基づくものである。本グループでは、公表されたデータの解析を行っているが、機能的ゲノム研究を進める研究室との共同研究も行っている。