海への贈り物-第2部:OISTにおける海洋保全の取り組み

今日の寄付が、科学による明るい未来を切り拓く

2020年12月

沖縄の沿岸に位置するOISTは、学生や教員が海洋生態学や海洋生物学を研究するのに最適な場所です。マリンゲノミックスユニット、海洋生態物理学ユニット、海洋生態進化発生生物学ユニットおよび海洋気候変動ユニットなどは、海洋科学の教育、学習、および研究のための素晴らしい機会を提供しています。

海洋科学におけるOISTの画期的な研究に対して過去10年間、複数の支援者様からご関心をいただいており、その寛大なご寄付をもって日本政府から受けている多大な補助金を補完しています。

この記事では、OISTにおけるサンゴの研究と保全(第1部)、そして海洋生態系と気候変動の研究(第2部、下記)について、これらの重要な取り組みを支えるフィランソロピー活動と合わせて、二部構成で詳しくご紹介していきます。

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サンゴ礁研究のデータベース1974年まで遡りますが、新しく興味深い傾向を明らかにしました。近年サンゴ礁は赤道海域から離れ、亜熱帯海域に生息する傾向にあります。この驚くべき発見は6か国、17の機関から集まった国際的な研究グループによってまとめられました。その中の1つの機関が御手洗哲司准教授率いるOISTの海洋生態物理学ユニットです。

海洋生態物理学ユニットでは、海洋学、流体力学、海洋生態学、遺伝学、ゲノミックスを統合し、環境変化が海洋生態系の過去、現在、未来の動態にどのように影響するかを解明します。

この40年間に「難民サンゴ」が発見されたことは、御手洗准教授研究室の研究者たちに、熱帯での生態系システムにおける素晴らしい多様性がより温暖な地域でも実現できるか、サンゴが将来いつどこに定着し、地域の漁業や観光業などに新たな資源や機会をもたらす可能性があるか、などの新たな疑問を投げかけています。

この疑問に答えるためには、以前の投資に加え、遺伝的および種多様性データを収集するための更なる科学的努力と資金源が必要です。本学では2012年から2015年にわたりや総額約30万ドルの寄付をアラムコ・アジア・ジャパン株式会社より承り、 サウジ・アラムコ海洋環境基金を設立しました。本基金は、研究者が複雑な海洋生態系をより深く理解するために役立ちます。会社代表取締役社長 オマール M. アル アムーディは次のように述べています。「親会社であるサウジ・アラムコは2010年に締結された日本政府との協定に基づき、沖縄県うるま市の原油ターミナルの利用契約をしています。このことが沖縄とのご縁となりました。沖縄はサンゴが豊富な地域です。サンゴは生物多様性が脅かされている所に生息し、1970年代よりその数が徐々に減少しています。OISTの研究者が沖縄の海洋生態系保存のために問題の原因究明に取り組めるよう、この基金がお役に立てば幸いです。」

このような寄付によりOISTが海洋科学のリーダーとなって、ティモシー・ラバシ教授をはじめとする、この分野の教員や学生たちを新たに迎えることができました。

近年ラバシ教授によって、熱帯魚の環境への順応と適応のメカニズムを研究する海洋気候変動ユニットが設立されました。研究によると海水温上昇に対する反応は熱帯魚の種類によって異なることが判明しました。言い換えれば、一部の魚は遺伝的変異によって、他の魚よりも脆弱になるということです。

人為的気候変動が魚に与える影響をさらに調査するため、ラバシ教授は管理された環境下で熱波をシミュレートし、温度の違いや期間の違いが魚にどのような影響を与えるかに関するデータを収集しました。

彼の研究は海洋保護区の設計に役立つ展望があります。また沖縄と日本の主要な経済部門である魚の養殖(別名アクアファーミング)にも影響を及ぼします。地球温暖化による過剰な熱の90%は海洋に蓄えられており、魚によってその熱に対する反応が異なるため、今世紀末までに魚の供給が劇的に変化する可能性があります。それは日本の年間140億ドルの商業漁業に深刻な影響を与えるだけでなく、政策立案者にも悪影響を及ぼします。ラバシ教授は、沖縄県栽培漁業センターと​​の連携を図り、研究が早急な変化に貢献していることを確認しています。

彼はまた、琉球大学、東京大学、筑波大学などの日本機関と提携し、研究の範囲を拡大してきました。そして最近では、最も権威のあるサンゴ礁センターの1つであるオーストラリア研究会議(ARC)のサンゴ礁研究センターの研究者との共同研究に非常勤講師として招かれました。 OISTと他機関が協力し、気候変動による生態系の反応に対する理解を深めています。

沖縄や世界では、急速な環境変化が感じられるようになっています。気候変動と海洋生態系に関する研究は、様々なコラボレーションの機会を提供します。例えば海洋生態物理学ユニットが収集した情報は、サンゴ礁、マングローブ、深海の熱水噴出孔などの海洋生態系の保全を促進するために活用されています。御手洗教授は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) のワーキンググループに所属し、日本の排他的経済水域 (EEZ) の海底における鉱物資源の掘削が、環境に深刻な影響を及ぼすことなく実施できるようにしています。

OIST財団は、OISTの教員と他の主要な科学者を結び付けることによって、特に日米間のコラボレーションを促進する役割も果たしています。 11月、国際交流基金日米センターの支援を受け、同財団は気候と環境に焦点を当てた新たなイニシアチブを開始しました。3部構成のウェビナーシリーズ、「気候の未来」は気候変動に関するパートナーシップと政策者のネットワークを拡大する戦略計画に使用されます。ウェビナーのトピックは全て海洋科学に関係し、島の生物多様性、海洋、代替エネルギーについて発信しました。

日本政府、法人・個人の寄付者様からいただいたOISTの気候変動研究に対するご支援により、研究者や大学院生は地球にとって有益で画期的な発見をすることができるようになりました。しかし、まだやるべきことがたくさんあります。この喫緊の課題に熱意を抱く皆様に、本学の研究の発展に貢献していただきたく、ご支援のほどお願い申し上げます。なお、米国在住のご支援者は、OIST財団を通じて税控除の対象となる寄付を行うことができます。

 

エミリー・ワイスグラウ
翻訳:冨村 ゆう子