進化神経生物学ユニット(渡邉 寛)

 我々後生動物の進化において、神経系の出現は、体軸や胚葉の獲得と並んで最も歴史的な出来事の一つである。神経系の進化的起源は生物学において重要な未解決問題であるにも関わらず、神経細胞の起源や神経系の中枢化過程など多くのことがいまだ不明である。例えば、神経細胞は高度に特殊化した種々の性質を有するが、最初に出現した神経細胞がどのような生理学的特性を獲得していたのかについては明らかではない。また現存する動物で広く見られる中枢神経系が、原始的な集積神経系に由来するのか、あるいはパターン化された散在神経系に由来するのかに関する議論も決着していない。

 現存する動物の中で、進化の初期に分岐した刺胞動物(ヒドラ、クラゲ、イソギンチャクなど)、有櫛動物、平板動物そして海綿動物などの”原始的な”動物群は、これらの疑問に答えるために最も適した実験モデルである。実際、これらの動物のゲノムや細胞組織学的解析が近年急速に進んだ結果、神経系の起源や進化過程に関する従来の仮説に関して再考が迫られている。

 進化神経生物学ユニットでは、特に(1)左右相称動物に最も近縁な刺胞動物の散在/集積神経系の解剖学的および生理学的特徴に関して、最先端の神経生理学およびイメージング技術を駆使した解析を行うことにより、原始的な集積神経系の理解を目指す。また(2)刺胞動物の集積神経系(准中枢神経系)に焦点を絞り、その局所化された発生機構を明らかにする。これにより神経系中枢化の進化過程の再構築を行う。さらに(3)上述した動物群などを用いた神経伝達物質の包括的なオミックス解析を行うことで、原始的な神経細胞の生理学的特性の解明を目指す。