領域概要

この新学術領域では以下の3つの主要課題を設定し、それぞれの作業仮説と手法により意思決定と脳内シミュレーションのメカニズムの解明に取り組みます。

  1. 行動と意思決定の計算理論
    モデルフリーの意思決定は処理は単純であるが融通がきかない。一方モデルベースの意思決定では経験から得た知識をより柔軟に活用することができるが、その処理は複雑になるという得失を持つ。そこでヒトや動物は、脳の進化と発達段階、各個体の経験、また意思決定の実時間的拘束のもとで、それぞれの方式による価値評価の確実性に応じた選択と組み合わせを行うという作業仮説をとる。論理学や機械学習の理論をもとに、異なる手法の選択と組合せのアルゴリズムを導出し、それらによる予測とヒトや動物の行動を照らし合わせる実験により仮説の検証を行う。
     
  2. 意思決定の神経回路機構
    脳内シミュレーションには小脳の予測モデルや大脳皮質の確率推論機構が関与しており、線条体、扁桃体、手綱核による報酬と罰の評価機構との連携により行動選択が行われるという作業仮説をとる。神経活動記録による行動の結果の予測や報酬評価に関与する脳部位の特定、神経活動の刺激と操作実験による機能の検証を行い、さらに多数の神経細胞の光学記録により脳内シミュレーションの計算過程を具体的な形で明らかにする。
     
  3. 意思決定を制御する分子・遺伝子
    行動の結果得られる報酬予測の時間スケールが脳内のセロトニンのレベルにより制御され、報酬による行動強化と罰による抑制が異なるドーパミン受容体により制御されるという作業仮説をとる。これら意思決定の特性は、環境条件や個体の経験に依存して調節されるべきであることが理論的に予測され、これを多様な環境条件のもとでの行動解析と薬理、遺伝子操作により検証する。