研究論文 / ニュース


 


Photo taken by Dr. Yoko Nomura

"Characterization of Basho-fu Material from Traditional Degumming Process" by Dr. Yoko Nomura is published. https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiberst/73/11/73_2017-0039/_article/-char/ja

【日本語要約】

芭蕉布はセルロース系繊維であり、その原材料はバナナの1種のイトバショウです。芭蕉布を構成する糸には、イトバショウの偽茎の各葉鞘の表皮側が使われます。まずは、うー剥ぎと呼ばれる伝統的な工程で得られるサンプルを電子顕微鏡で調べたところ、芭蕉糸のもとになる密な維管束が多く存在していることがわかりました。すなわち、伝統的な工程では、経験的にこの維管束の多い表皮側だけをイトバショウから切り出し選別しており、これが次に続く精錬の効率化に寄与しているものと考えられました。また、電顕による観察では、この維管束は精錬後もよく保存されていることもわかりました。この維管束の断面は、他の繊維断面にはないユニークな形を持つ中空状であり、これらが芭蕉布独特のシャリ感や水分の拡散に寄与していると推測され、蒸暑い沖縄の夏に適した布として芭蕉布が長く着用されてきたものと考えられます。

イトバショウから切り出された原材料は、木灰汁を薄めたアルカリ溶液に入れて煮沸し(精錬)、一晩放置し水洗いされます(うー炊き)。この精錬は、熟練者によって行われ、全ての工程中最も注意の必要な工程です。この方法は、実験室で行なうアルカリ精錬よりもマイルドな方法であることが、FTIR分析で示されました。一方、伝統的な製法により得られたサンプルのセルロース繊維としての結晶化度は、実験室の方法と同じ程度まで向上していることがわかりました。

また、精錬後の材料のタンパク質の含有も確認し、これは1980年代の琉大の紀要にある芭蕉糸の分析の結果を裏付けるものとなり、綿などの他のセルロース繊維には見られない特性を再確認しました。(野村陽子博士)