Issue 2 2023年2月 効果的なコミュニケーション
今月のトピック:効果的なコミュニケーション
効果的なコミュニケーションは、研究、教育現場、人前で話すとき、そして職場等、すべての場面で欠くことができないスキルです。 例えば、 履歴書やカバーレター作成、面接で自分の長所や実績を明確に伝えたり、またインパクトのある論文を発表する際でも成功の鍵となります。効果的なコミュニケーションの特徴は、簡潔さ、明確さ、聴衆への配慮、コミュニケーションの目的に関連したマナーやルールの正しい適用にあります。さらに、効果的なコミュニケーションを目指すには、無意識のバイアスが理解や対話の妨げになることを認識する必要があります。 ある文化圏では、沈黙は敬意を表す方法として尊重され、当然とされていますが、別の文化圏では、沈黙は遠慮、恥ずかしさ、無知と受け取られるかもしれません。その結果、メッセージの発信側と受信側の双方に誤解が生じる可能性があります。そのため、異文化間コミュニケーションはもちろん、多文化間コミュニケーションについても理解を深める必要があります。次の図が示すように、コミュニケーション能力にはさまざまなレベルがあります:
能力 |
強調 |
語学力 |
リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングにおいて、第二外国語の流暢さと正確さを身につける。教養あるネイティブ・スピーカーを目標とし、コミュニケーション目的の言語使用に重点を置く。 |
コミュニケーション能力 |
対象言語と文化の文化的背景の中で、効果的かつ適切なコミュニケーションを図るための言語対話能力を育成する。文法的、社会言語的、談話的、戦略的など、特定の状況における言語対応能力を含む。 |
文化的能力 |
対象文化において(適切なコミュニケーションと並行して)適切に行動する能力を養う。ジェスチャー、体の動き、非言語的なあいさつ、テーブルマナー、(特有な)文化的産物の使用などの一連の作法 |
異文化間能力 |
関係する文化にかかわらず、複数の異文化が重なる状況において効果的かつ適切に交流する能力を養う。 |
異文化間コミュニケーション能力 |
異文化間能力およびコミュニケーション能力の同時開発。 |
Moran, 2001, p.108
この表は、言語が流暢であることや、対人コミュニケーション能力が高いことが、必ずしも文化的、あるいは異文化コンピテンシーの良い指標にならない原因を説明しています。多様性に富んだ集団において、無数の文化的境界が存在する場合には、この表にあるような特徴をも超越した多文化間コンピテンシーが必要とされます。
科学的根拠
アメリカン・アソシエーション・オブ・カレッジ・アンド・ユニバーシティ(仮称:米国大学協会AAC&U)が2007年から定期的に行っている調査1では、「口頭でのコミュニケーション」や「文章を書く力」といったいわゆるソフトスキルは、希望するポジションの獲得やキャリアアップにおいて優先度が高いとされています。また、13の必須スキルのうち上位5つにソフトスキルが入っているだけでなく、技術的なスキル(特定分野の知識領域など)が似通った候補者がいた場合にでも、ソフトスキルの強みによって選抜の場面で抜きんでる要素にもなっています。また、「異文化の知識と能力」も上位13項目の中に含まれています。
今日からできる実践方法
まず最初にできることは、自分が他人とどのようなコミュニケーションをとる傾向があるかを評価することです。そのためには、「効果的なコミュニケーション・スタイルに関するチェック項目2」をご使用ください。ある状況でうまくコミュニケーションができるからと言って、他の状況や異なる相手にも同じように効果的だとは限りません。また、共感的な聞き方は、効果的なコミュニケーションの一部として見過ごされがちであることを覚えておきましょう。
さまざまな状況・文脈で効果的なコミュニケーションを行うには、古典的な修辞学の4つのカテゴリー、パトス(感情への訴え)、エトス(信頼性への訴え)、ロゴス(論理への訴え)、カイロス(タイミングと機会を合わせて伝えること)を念頭に置いておくとよいでしょう。それぞれのカテゴリーには、異なる戦略があります。たとえば、意見が対立しているときに、論理的な推論を強調する議論的なスタイルではなく、話し手の感情を強調し、聴衆の感情を呼び起こすようなストーリーを選ぶには、パトス、ロゴス、カイロスの要素を考慮する必要があります。C-Hubのリソースページでは、これらのアイデアを活用した文化的にインクルーシブな教室内でのコミュニケーションに関する資料をご覧いただけます。
ここでは、効果的なコミュニケーターになるための追加の方法をいくつか紹介します:
-
より広い組織において(例:電子メール、同僚とのその他やりとり)
-
プロジェクトやプロセスへの参加を妨げている可能性のある、ユニットやチームの少数派、もしくは偏見により矮小化されがちなメンバーのコミュニケーションにおける無意識の側面について、意識を高める。
-
時間をかけて同僚とつながる
-
安全でインクルーシブ、かつ利用しやすい環境を作ることを目的としたミーティングの基本ルールを設定する(基本ルールの一例として、C-Hubコミュニティルールを参照)。
-
研究において
-
論文原稿を、異なる背景(研究分野、文化など)を持つさまざまな同僚と交換し、自分の論文に関する意見を伝えたり、フィードバックをもらう機会をもつ
-
授業や育成指導の実践場面で
-
クラス全員、もしくは指導を受ける相手との1対1のセッションで、敬意に満ち、身近でインクルーシブな言葉を使用する
参考文献と関連資料:
Association of American Colleges and Universities (AAC&U). (2018). Fulfilling the American dream: Liberal education and the future of work selected findings from online surveys of business executives and hiring managers. Washington, DC: AAC&U.
de Vries, R. E., Bakker-Pieper, A., Konings, F. E., & Schouten, B. (2013). The communication styles inventory (CSI) a six-dimensional behavioral model of communication styles and its relation with personality. Communication Research, 40(4), 506-532.
Hargie, O. (Ed.). (2018). The handbook of communication skills. Routledge.
Moran, P. R. (2001). Teaching culture: Perspectives in practice. Boston: Heinle & Heinle.