研究

 

研究

 近年、物質をナノメートルのスケールで合成、操作および観察する技術により、新たな現象がみられるようになり、応用されるようになってきました。一方、最新のレーザーは、電子と原子の相互作用をフェムト秒時間スケールで観察できる強力な光の超短パルスを発振します。フェムト秒時間分解能とナノメートル空間分解能を実現するこれらの技術を組み合わせることにより、軽物質相互間の作用に関する新しいパラダイムを研究することが可能になります。フェムト秒分光法ユニットでは、こうした技術に基づいて以下の2つの研究領域に着目しています。

(a) メタマテリアルとプラズモニクス(人工的にナノスケールで加工された物質によりエネルギー効率の良い超高速の光子デバイスが期待される)
(b) ディラック物質(グラフェンやトポロジカル絶縁体のような物質中に存在する電子は、中性子星や白色矮星でみられるものと類似しており、興味深い光電子特性を有している)

以下に、各研究領域の概略について述べます。

A)メタマテリアルとプラズモニクス

 メタマテリアルは、ナノスケールで作られた新しい人工物質で、これまでにない線形の電磁現象を示します。これらは負の屈折率を持ち、透明マントとして働き、回折限界を超えて像を写すことができます。メタマテリアルは、強い光磁性を示し、逆方向の伝搬電磁パルスを誘起し、光波の磁場に反発することでマイスナー効果に似た効果を発揮し、また様々な屈折率(完全なゼロから大きな値まで)を有しています。

 一般に、メタマテリアルは、単位素子(メタ分子として知られる)が規則的に配置された構造で、金属元素と誘電素子からナノスケールでの慎重な操作により製作されます。現在まで、これらの製作と線形の光学的性質の研究に多大な労力が傾けられてきました。最近では、バイアス電圧、電磁パルス、熱によりメタマテリアルの特性をアクティブに制御する試みがなされています。メタマテリアルの集束電磁場の領域に非線形の外部媒質を組み込むことによって、重要な機能を付加することもできます。こうした考えに基づき、高効率の太陽電池、強い非線形光学特性を有する物質、エネルギー効率の良い他の超高速光子デバイスを実現できると期待されています。

 フェムト秒分光法ユニットでは、これまでにない線形の光学的性質を有するメタマテリアルの開発、外部刺激によるこれらの特性のアクティブ制御、およびメタマテリアルへの外部媒質の組み込みによる非線形光学特性の操作について研究しています。

B)ディラック物質

 グラフェンおよびトポロジカル絶縁体のようなディラック物質は、バンドギャップがゼロのとき、エネルギーと運動量の分散関係が相対論的に線形となります。このような「テーブルトップ(table-top)」な物質の中に存在する電子は質量がゼロであり、中性子星と白色矮星でみられる高エネルギー相対論的電子の物理的現象に類似しています。このことは、異常量子ホール効果、クラインパラドックスおよび普遍的な光学伝導度の実証につながりました。また、テラヘルツデバイスに応用され、例として太陽光発電やタッチスクリーン、広帯域の中赤外光検出器や波長可変超高速レーザーなどがあります。ごく最近の理論計算によると、高効率の太陽電池が期待できるキャリア増倍のような効果も予測されています。これらの初期の応用により、光子デバイスにグラフェンが有用であることが確実視されるようになりました。しかし、グラフェンの可能性を十分に引き出すには、特に高速のフォトニクスにおいて、光励起状態の相対論的な電子正孔プラズマの力学についてフェムト秒時間スケールでさらに深く理解する必要があります。平衡状態(相対論的物質における基底状態の物理的現象)から新しい基礎物理が築かれたように、非平衡状態の相対論的力学もまた興味深い分野として期待されています。

 フェムト秒分光法ユニットでは、ディラック物質の光生成電子正孔プラズマの基本的特性をフェムト秒時間スケールで探究するとともに、エネルギー、フォトニクスおよびプラズモニクス分野における新たな応用例の開発に努めています。