素晴らしきゾウムシの世界:台湾の阿里山で発見されたカレキゾウムシの新種

素晴らしきゾウムシの世界:台湾の阿里山で発見されたカレキゾウムシの新種

 

ゾウムシ(甲虫目、ゾウムシ科)は、象の鼻のような口を持った甲虫で、とても種類が多く、甲虫を代表する分類群です(日本語では、象の虫と書いてゾウムシという)。この象の鼻のように変形した口を総称して口吻と呼んでいます。ゾウムシの多くは、寄主植物に穴を開けるのにこの口吻を使っていて、そのため、被子植物の適応放散とともにゾウムシの多様な進化が引き起されたと考えられています。ゾウムシは63,000種以上もの記載があり、実際にはそれより多くの種の発見が期待されることでしょう。ゾウムシは世界中の生態系において重要な役割を担っているだけではなく、その形態や行動も驚くほど多様です(図1)。近年の系統学の研究によってゾウムシの科と亜科の系統関係は明らかになりはじめていますが、多くの属の系統関係は未知のままで、多くの種において新たな発見が待たれている状態です。我々のゾウムシへの理解はまだまだ追いついていないのです。

ゾウムシの中には、複数の種類の植物を利用する「ジェネラリスト」もいますが、多くは一種類の植物だけを専門的に利用する「スペシャリスト」です。限られた植物を好むスペシャリストは、寄主植物が減った場合に代わりとなる植物を他で代用できないため、人為的な撹乱(森林破壊や伐採など)や温暖化による影響を受けやすくなります。これは以前からもですし、これからも生物多様性の保全の面で大きな問題となっています。残念なことに、ゾウムシのスペシャリストのいくつかの種は、人間の活動によってすでに絶滅してしまったものもあります。北アメリカに生息していたオオクリシギゾウムシ Curculio caryatrypes (Boheman, 1843)は、アメリカグリ Castanea dentata のみを餌としていましたが、アジアクリ胴枯病がニューヨークに持ち込まれると、外来病原菌に対する耐性をもたないアメリカグリが大量に枯死し、オオクリシギゾウムシは1987年から現在まで目撃されておらず、絶滅したと考えられています(詳しくは以下参照:https://nature.ca/en/co-extinction-and-the-case-of-american-chestnut-and-the-greater-chestnut-weevil-curculio-)。種を保全するためには、まず我々はその種の存在とその自然史を知る必要があります。そのため、新たな種の発見は、ゾウムシの進化を完全に理解するためだけでなく、その保全のためにも重要なのです。

環境科学・インフォマティクスセクションのジェイク ルイスは、OISTの昆虫コレクションを管理し、ゾウムシの分類を専門としています。彼はOISTの昆虫コレクションのゾウムシの分類を行うかたわら、九州大学へ何度か訪問し、九州大学の豊富な参照標本やタイプ標本を閲覧してきました。ジェイクは九州大学への訪問で、台湾で採取されたゾウムシサンプルからKarekizo属の新種を発見し、この成果が最近、雑誌Zootaxa   に掲載されました。Karekizo depressusという名前で記載されたこの新種は(図2)、同じKarekizo属のシロカレキゾウムシK. impressicollisとは、腿節(ゾウムシの脚の太ももにあたる節)の背面形状が異なっています。シロカレキゾウムシではこの部分が直線的ですが(図3a)、K. depressusでははっきりと窪んでいます(図3b)。これが、この新種の「depressus」という種小名の由来です(depressusはラテン語で「押し下げた」という意味)。新種 K. depressusでは、色や大きさ、オスの生殖器の形状も異っています(図3―c,d)。甲虫の分類において、オスの生殖器(メスも同様)の形状は、種レベルで同定が可能であり、系統学的な特徴が含まれるため非常に重要です。日本のKarekizo属の記載は、基本的に日本本土に生息する1種(シロカレキゾウムシK. impressicollis Morimoto, 1962)に基づいており、より多くの種を含有する Trachodes 属やAcicnemis属と近縁です。学名の多くはラテン語で表記されますが、Karekizo属の属名は、日本語の「枯れ木」と「象」で表されています。この属の仲間は山間部に生息していて、そのためかあまり採集されることはありません。

 

 

 

鳥, 動物, グループ, 水 が含まれている画像自動的に生成された説明

図1. A) ゲットウトゲムネサルゾウムシ Xenysmoderes consularis (Pascoe, 1869) は、沖縄でよく見られる種で、春に月桃の花の上で見つかります。この種は触ろうとすると後ろ脚で飛び跳ねて逃げるのですが、こういった能力はゾウムシの中で独立に何度も進化してきました。B) シロカレキゾウムシ Karekizo impressicollis Morimoto, 1962 は、日本本土と韓国のチェジュ島で見られ、山間部に主に生息しています。C) Listronotus delumbis (Gyllenhal, 1834)は、北米の湿地帯に生息し、よく泳ぐことができるゾウムシです。D) Cosmobaris scolopacea Germar, 1819は、ヨーロッパからアジアにかけて分布し、沖縄本島でもまれに見られます。E)サビヒョウタンゾウムシ Scepticus griseus Roelofs, 1873 は、沖縄本島の砂浜にある様々な草花の上で見られます。F) タバゲササラゾウムシ Demimaea fascicularis (Roelofs, 1879) は、東アジアで見られる白黒の美しい種で、イヌビワやクワ科の他の植物の上で見られます。

 

A close-up of a skullDescription automatically generated with medium confidence

図2. Karekizo depressus Lewis, 2023

 

A picture containing plantDescription automatically generated

図3. A) シロカレキゾウムシKarekizo impressicollis の腿節の背縁は直線的です。B) Karekizo depressus の腿節は背縁の中程にくぼみがあります。C) K. depressusのエデアグス(オスの生殖器、ペニス)。D) シロカレキゾウムシのエデアグス。