研究安全

OISTの安全衛生体制について

2016年11月14日に発生した潜水事故を受けて、沖縄科学技術大学院大学(OIST)では安全衛生体制を強化してきました。ピーター・グルース学長の指揮の下、研究支援ディビジョンにより整備・実施されてきた安全強化対策を以下に記述します。

1.互いに尊重し合う職場およびハラスメント防止について

2017年9月21日に全教職員・学生を対象に、互いを尊重し合う職場の実現とハラスメント防止に関するセミナーを日英それぞれの言語で開催しました。同セミナーでは、本学の基本理念の一つである「互いに尊重し合う職場」について再確認するとともに、ハラスメントに関する通報窓口についても説明が行われました。

2.安全研修および健康診断実施の義務

全教職員・学生による安全研修の受講および健康診断の受診を監督するための電子システムを導入し、状況をモニターしています。野外活動に参加する者は、一次救命処置トレーニング(応急処置講習(first aid)及び心肺蘇生講習(CPR))を実地研修として受講し、野外活動一般講習(オンライン)ならびにその他必要な研修を受講することが義務付けられています。教職員・学生の一人ひとりが、そして直属の上司も、研修と健康診断実施状況をすぐに確認できるようになっています。

2019年4月から5月にかけては、健康診断に関する全学的な調査を行いました。産業医と衛生管理者が実験室を訪問し、実態に応じて必要な健康診断が受診されているかを確認しました。

3.野外活動安全委員会

2017年には、野外活動安全委員会を発足しました。本委員会は、OISTの野外活動全般にわたる野外活動計画書を厳しく審査します。本委員会のメンバーはダイビング安全主任者や緊急対応コーディネーターを含む8名の学内メンバーの他、3名の学外専門家で構成されています。
野外活動安全委員会は2021年7月初旬に構成の見直しが行われ、学外専門家2名が新たに任命されました。 野外活動実施者と良い双方向コミュニケ―ションをとるための意見交換の機会を設けるため、本学で実際に野外活動を行う参加者から2名がオブザーバーとして任命されました。

4.緊急対応コーディネーター

火災や地震、津波などOIST学内で発生しうる緊急事態へどのように対応するかを想定した戦略的な計画を立てるために、緊急対応コーディネーターを配置しています。

5.ダイビング安全主任者

ダイビングに係る健康および安全面を監督するダイビング安全主任者として、日英バイリンガルでダイビングインストラクターとしての豊富な経験を有する小澤順一氏が2019年3月1日に着任しました。また海外で取得した潜水士資格を日本の潜水士資格に書替える手続きを、国内外の関係機関との連携のもとに推進しています。これまで2019年にに英国潜水士資格で1例、2021年のフランス潜水士資格の切り替え申請により2例が沖縄労働局より承認されました。

トレーニング関連では、OISTダイバーとオンサイトリーダーに緊急時の酸素利用を可能にするトレーニングを2020年6月から開始しました。これによって救急隊到着前から潜水事故者に酸素吸入措置を講じることが可能になり、救命率向上につながります。安全潜水のため、ダイバートレーニング、現場視察を行っていきます。

6.インシデント・アクシデント報告

事故の未然防止を目的とし、本学のインシデント・アクシデント情報に関する報告、収集、分析及び公開までの包括的なルールを示すOIST インシデント・アクシデント報告ガイドラインが2020年4月に策定されました。これに基づき、学内における怪我につながりそうだった事例(ニアミス)や、実際に怪我に至った事例を収集し、これらの事象に至った現場の状況や事故防止の対応策を共有するプロジェクトが実施されています。活動の主体はOIST安全衛生委員会であり、委員会は再発防止のための是正措置について審議し、報告者に対してフォローアップを行っています。

7.安全強化月間

毎年、潜水事故が発生した11月を「安全強化月間」と定め、学内の安全体制について考えを深め、更なる改善点はないかということに改めて意識を向けることにしています。

故人を偲ぶ全学の取り組みの一環として、2017年11月13日に、鈴木祥平氏の追悼講演会を開催しました。同講演会では、佐藤矩行教授が海洋科学に関する追悼講演を行った他、エヴァン・エコノモ准教授が新種のアリに鈴木博士の名前を命名し、アリの写真の贈呈と合わせ、命名に込められた思いを鈴木博士のご家族に共有しました。

また、安全な野外活動の促進と普及を目的とした「鈴木祥平研究安全基金」の設立を発表しました。2017年11月30日から基金への寄付の受付を開始しており、鈴木祥平博士のご家族やピーター・グルース学長、研究担当ディーンのメアリー・コリンズをはじめとするOIST職員の一部が、本学内の安全文化を高めるという趣旨のもと、鈴木祥平安全基金へ寄付を行いました。また、同基金では、学内における研究安全や安全トレーニングに対する意識を高め、学生や経験の浅いOISTの研究者や技術者が研究安全を含むフィールドワークに必要な技術を身につけることができるよう、2018年5月から研究安全助成プログラムの公募を開始し、これまでに12件の助成を行いました。

「安全強化月間」のその他の活動については、OIST安全衛生委員会において毎年企画立案を行い、学生会、保健センター、がんじゅうサービスの協力のもと、安全のみならず福祉・衛生の分野を含めた幅広い側面から全学的な安全衛生啓発活動を実施しています。主にセミナーや参加型のイベントを通して注目すべき課題を全学的に共有し、法令遵守の総点検を促す活動等により安全に対する改善の意識を高める取り組みを行っていきます。

2021年度の「安全強化月間」においては様々なイベントが開催されました。安全分野においては、レクリエーションサービスが主催する海洋安全講義、生物学的不活化と適切なDS2 / N95マスクフィットトレーニングに関する活動および実験室関連のニアミスと教訓のポスターが作成・掲示されました。 実験室の火災安全を専門とされる名古屋大学環境安全衛生管理室の富田教授による、実験室における火災対応に関するセミナーを実施しました。健康と福祉のカテゴリーでは、ストレスと女性の健康の管理に関するセミナー、職場の人間工学に関する動画が作成されました。

8.業務委託

ダイビング安全主任者の着任により、2019年8月の野外活動安全委員会で教職員学生が潜水できる深度を30メートルまでとし、それ以深の潜水を外部委託にすることを決定しました。潜水作業を委託する者が野外活動計画を作成し、同計画書は野外活動安全委員会によって審査されます。

9.より強固な安全衛生部署を目指して

前述の通り、潜水事故後採用された緊急時の対応にあたるコーディネーター、ダイビング安全主任者、野外活動安全委員会のサポートを行う野外活動安全スタッフと既存のスタッフにより安全管理の向上が推進されています。今後も、OISTでの安全衛生担当職員の拡充や各個人の資質向上によって、該当部署を強化して参ります。

更新日付:2022年4月7日