参加者の声: 小林香音さん

今回はトム フロース先生率いるEmbodied Cognitive Science Unit(身体性認知科学ユニット)でのリサーチインターンシップに参加された小林香音さんにお話を伺いました。


 

1.このプログラムへ応募したきっかけや経緯を教えてください。

私は聴覚刺激を脳がどのように処理し認識するかに強く関心を持ち、特に聴覚刺激に対して脳が同期する現象に注目して慶應精神科教室の指導のもとレビュー論文を執筆してきました。さらにOISTとも合同シンポジウムを開催している、Arts Meet Science (AMS)という芸術と科学の接点を議論する学術団体の学生運営メンバーとして、芸術大生と共に、聴覚や視覚などの感覚間の相互作用を促進することを目指す作品を製作してきました。OISTの身体性認知科学ユニット(ECSU)ではまさに相互作用や同期性をテーマに、知覚や認知における哲学的仮説を科学的に検証する試みをしていることを知り、AMSで哲学と科学の繋がりを議論していた私にとって、プロの科学者と議論できアイデアを学べる機会は逃せないと応募を決めました。

2.参加前の想像と、実際に参加してみてどうだったかを教えてください。(良い点、改善できる点もあれば併せてお願いします。)

研究者が皆伸び伸びとメリハリをつけて研究している様子は非常に大きな驚きでした。OISTの広大で美しいデザインの研究施設の中には個人が作業しやすい様々な空間が存在し、自然豊かな場所にあることでÿ分転換が容易でした。17時を過ぎると皆帰宅し、休日はラボにはほぼ誰もおらず、Slackやメールのやり取りも一切なくなるというメリハリの良さは、今までに体験したことがありませんでした。OIST全体のコミュニケーションの豊富さも想像以上で非常に魅力的でした。ECSUのメンバーは皆友好的で、どの質問に対しても非常に示唆的に回答してくれる他、何ÿない日常会話からも大きな学びがいくつもありました。そして研究棟内の各ユニットの配置の工夫やユニット合同のラボデスク、PhD生のローテーション制度、クラブ活動の存在などによって、ユニットを越えた交流が盛んで、ユニット外にも貴重な友人の輪が広がりました。構内に夜も利用できる食堂があれば完璧だと思いました。

3.OISTリサーチインターンとしてどのような1日をすごしていますか?小林さんの1日をおしえてください。

身体性認知科学は心に関する哲学を扱う学問で、生物が身体を用いて能動的に環境と相互作用することで認知が生まれると説明します。これを実験で検証するための2つの実験に関わり、ユニット内の過去論文を読んで質問し研究者と議論することで学びを深めました。触覚を通じた二人の相互作用と同期性をテーマにしたPerceptual Crossing Experiments(知覚交差実験)においては、最新の関連論文を読みプレゼンテーションを行い、この論文のアイデアを参考に、本ユニットでの実験系をどのように改良できるか話し合いました。また能動的探索の認知に対する影響を調べるAgency in Perceptionプロジェクトにおいては、一般の被験者を迎えてデータ取得を一人で行えるよう実験系の動かし方を学び、事後解析も行ないました。そのほか、ECSUが主催するPhD生向けの講義に参加して、身体性認知科学の基本概念について身近な例を考えながら皆で議論することで学びを深めるほか、神経科学者に神経生理指標や脳機能イメージングの基本概念や、最新の研究動向について詳しく質問し教わりました。

4.週末はどのように過ごしていますか?

ルームメイトやユニット内外で出会った友達と共に、自然豊かな沖縄ならではの様々な冒険をしました。手頃なハイキングを楽しめる嘉津宇岳登山、クジラを目の前で見られるWhale watching、一面の珊瑚礁が広がるアポガマビーチでのシュノーケリング、名護の山中の川を上流に向かって歩く川登り、やんばる国立公園にてマングローブの間と河口でカヤックを楽しむ他、OISTから借りた自転車で観光名所巡りも行いました。様々なバックグラウンドを持つ学生と仲良くなり研究の話を聞く中で、それまで馴染みがなかった研究テーマについても興味が広がりました。

5.その他(自由欄)

OISTは人材、施設、資金面、国際色の豊かさなど多くの面で恵まれている素晴らしい研究環境だと感じました。ECSUは認知についての哲学的な考え方から、より神経科学的な議論まで、学びたかった観点が揃っていたユニットで、実際に研究者たちに細かく質問し議論できたことは非常に貴重な経験でした。哲学的な問いを検証するための科学実験の組み立て方や、様々な生理指標の測定法を学べたことはAMSプロジェクトでの実験計画や私のレビュー論文に直接還元できました。ひいては神経内科医として認知神経科学の観点からもアプローチできたらと考えている私にとって大きな収穫になりました。この度は素晴らしい機会を頂戴し、心より感謝申し上げます。