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研究、文化、チームワークに没頭、沖縄STEMの夏

この夏、OIST(沖縄科学技術大学院大学)は、OISTの戦略的パートナーの一つである慶應義塾大学医学部から18名の医学生を迎えました。18名の「キャンパー」は、日本の南西部にある風光明媚な亜熱帯の島沖縄にある最先端の研究施設で、10日間にわたって様々な分野の基礎研究に参加しました。

沖縄の文化に足を踏み入れる

キャンプ初日は、沖縄の海にサンゴの苗を植えるという、OISTの沖縄に対する継続的なコミットメントとしての重要な貢献活動から始まりました。OISTは、沖縄におけるイノベーションのパートナーとなるべく、経済成長と持続可能な利益を促進する触媒として、日本や世界の社会における重要な課題に取り組む活動をしています。

サンゴ礁プロジェクトに参加したことは、医学生としての多忙な生活の中で、環境問題にまで考えを巡らせる時間がなかなか取れないキャンプ生にとって、さらに気づきを得るチャンスとなりました。サンゴ礁の保全と再生は、世界的な課題です。このダイビングは、サマーキャンプに参加した学生らが10日間を過ごす沖縄が抱えている課題を理解するようになるとともに、沖縄と世界の重要な環境問題と戦うOISTの取り組みを紹介するために不可欠なものでした。

キャンプ期間中ずっと、学生らは文化に漬かって過ごしました。沖縄は美しい海だけでなく、素晴らしい人々や文化に恵まれている地域です。キャンプ本来の目的が基礎研究に触れるという事から、課外活動ができる時間は限られてはいましたが、学生らは放課後、沖縄の伝統楽器である三線の授業を楽しんでいました。

三線の歴史や沖縄の音楽について学んだ後、安慶名さつき講師のご指導の下、学生らは一曲演奏できるようになりました。クラスの最後には、テンポの良い沖縄民謡「カチャーシー」に合わせて、キャンパーの皆さんは踊りを披露しました。夕焼けの中始まったクラスの外は、いつしかすっかり暗くなっていました。

参加者の声

プログラムの多くの部分で、沖縄の自然や、美しい環境と調和したOISTの施設を満喫することができました。

基礎研究に没頭

キャンプ開会式では、OISTの研究担当ディーンでもあるニコラス・ラスカム教授が、キャンパーに対し、「皆さんに研究者としての人生を体験していただきたい。私は研究を続けることで、世界中に友人を作ってきました。昔、ポスドク時代に外国の学会で出会った研究者とOISTで再会し、ここ沖縄で同じファカルティのメンバーとして同僚となり、友人になりました。」と挨拶しました。

この感動的な言葉が耳に残る中、18名のキャンパーは、基礎研究分野の実習に進むために、それぞれの研究室に向かって出発しました。学生らは17の研究ユニットに分かれ、それぞれの学生を指導するサイエンティフィックスーパーバイザーが配置されました。研究実習では、学生らは実験の補助やDNA配列の解析、機械学習チームとのディスカッションなどに参加しました。

山本雅教授は、自分のユニットに配属されたキャンパーについて、「非常に勉強熱心な子です。彼女は私のオフィスを頻繁に訪れて数多くの質問を投げかけますが、中にはこの分野を学んだ事のない人とは思えないほどの鋭い質問もあります。」と述べました。

また、サイエンティフィックスーパーバイザーの一人で、2名のキャンパーを受け入れてワカレオタマボヤのDNA 塩基配列決定について教えたシャーロット・カピタンチク博士は、「彼らは、予想外の結果にとても驚いていました。」と述べました。

この経験がきっかけとなり、キャンパーの中には、すでにOISTの博士課程に出願している人もいるそうです。OIST研究ユニットでの基礎研究トレーニングが、参加者らの将来の選択肢を広げることに成功すれば、それはとても素晴らしいことです。

参加者の声

貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。このプログラムで様々なことを学べました。医療以外の研究分野に触れることができ、視野が広がりました。OISTでの12日間は、私にとって忘れがたいものになりました。皆さんの優しさと協力に感謝しています。

ボランティアとPIの献身的な努力でパンデミック下のキャンプを成功させる―チームワークの物語

サマーキャンプが行われたのは、日本における新型コロナウイルス感染症第7波の最中でした。準備をしている中、沖縄では新型コロナウイルス感染陽性者数が急増していました。OISTではその状況を懸念し、一時はキャンプの再延期も検討しました。しかし、最終的には、私たちは参加を心待ちにしている医学生がこの貴重な経験を逃すことのないよう、プログラムの実施を決定しました。医学部3年生になると、医学生は臨床学習や病院実習に時間を割かなければなりません。

このキャンプを成功させた要因の多くは、博士課程の学生、ポスドク、事務局スタッフからなる、献身的なボランティアチームの活躍にありました。ボランティアチームは毎週集まり、自分たちのアイデアを出し合って魅力的かつ包括的なプログラムを組み上げました。その裏でまた、18名の代表研究者(PI)がそれぞれの研究ユニットで快くキャンパーを受け入れ、サイエンティフィックスーパーバイザーを任命し、キャンパーが各ユニットで実りある充実した時間を過ごせるように配慮頂いたことも、成功の大きな要因となりました。

このキャンプを成功させるために、OISTの多くのディビジョンやセクションが横断的に協力し合いました。大学院、大学コミュニティ、チャイルド&ユースサービス、広報、施設管理、情報技術など、OISTのすべてが、キャンパーが安全に、楽しく、集中できるように、このキャンプをサポートしました。

これは、OISTの強みの一つであるチームワークであり、それは「卓越性」「尊重」「責任」「透明性」「持続可能性」「多様性」「勇気」「自由」といったOIST独自の基本的価値観に由来します。

参加者の声

リーダーとして、キャンプ中に困ったときには何度もクレメントさんに連絡しました。クレメントさんの献身的な姿勢に、心から感謝しています。このキャンプが今後も続き、OISTと慶應義塾大学医学部との関係構築の助けになることを願っています。

ジェンダー、ダイバーシティ、インクルーシブの価値観を育む

OISTでの教育体験は、進化するグローバルなSTEMエコシステムにおける研究者やリーダーとしての課題に対する洞察を含まなければ、不完全なものとなってしまいます。学生らは研究倫理、英語でのサイエンティフィックライティングや論文作成、英語でのプレゼンテーションスキル、ジェンダー、多様性、インクルージョンといった、人文系科目にも触れることができました。

ユネスコ統計研究所によると、世界の研究者のうち、女性は30%未満であるとされています。OISTはその男女差を縮めるべく努力しています。サマーキャンプでは、18人のキャンパーのうち12人が女性でした。キャンパーらは未来のSTEMリーダーです。OISTのゲイル・トリップ博士とクリスティーヌ・ラスカム博士という、経験豊富で成功した科学者であり、教育者、また母親でもある教授陣による一連の講義とディスカッションを通して、キャンパーは、女性がSTEM分野のキャリアを目指すことを阻む要因についての視点と、これらの課題を特定し取り組む方法についての知見を学びました。

その後のグループディスカッションでは、キャンパーらが今後研究・医学の分野を追求する中で直面し得る課題や、その課題を克服するためのアイデア、また、STEMコミュニティで活躍するかもしれない配偶者を支援する方法などについて、思慮深く真剣に取り組んでいる様子が印象に残りました。セッションの最後には、各グループが、ジェンダー・ステレオタイプ、男性優位の文化、ロールモデルの少なさなど、STEMにおけるジェンダーギャップを長期化させる要因となる障壁と考えられるものについて発表しました。

トリップ博士とラスカム博士は、自らのアドバイスを体現するように、「あなたの性別が家庭や職業についての選択を左右するべきではない。あなた方は自らがなりたいと思うものになることができる!」という言葉で参加者を激励しました。キャンパーらは、OISTでこうしたロールモデルと1対1で話し合う機会を頻繁に求めていました。

参加者の声

パンデミックにより海外渡航が困難な中、日本にいながらグローバルな環境で学べるOISTでアカデミックな英語力を身につけたいと考えていました。

フィナーレ―英語で3分間のピッチに挑戦

キャンパーらにはキャンプ最終日に、英語で3分間のピッチを行うショートプレゼンテーションが課されました。参加者はキャンプで学んだこと、経験したことをアピールするピッチを準備し、シドニー・ブレナーレクチャーシアターで生の聴衆を前に発表することが求められました。OISTはこの最終イベントを最重要事項と位置付け、慶應義塾大学医学部副学部長の門川俊明先生と、本キャンプの出資者であり、慶應義塾大学の卒業生でユニゾン・キャピタル株式会社の創業メンバー兼代表取締役、及びOIST評議員である川﨑達生氏をお招きしました。キャンパーは、母校の副学部長が来ることを直前まで知らされていませんでした。この決断の背景には、サプライズは緊張をほぐし、プレッシャーを和らげる良い方法である、という考えがありました。

私たちには学生たちが緊張しているのではないか、スライドの準備が間に合わないのではないか、といった不安もありましたが、すぐにその考えは払拭されました。どのキャンパーも、的確かつ良く練られたプレゼンテーションを堂々と発表し、聴衆を魅了しました。

3分間プレゼンテーションの難しさは、自分の研究内容をいかに簡潔にまとめ、聴衆が何も質問せずとも容易に理解できるようにするかという点にあり、35分間のプレゼンテーションよりもはるかに複雑で難しい課題です。わずかな準備期間しかなかったにもかかわらず、キャンパーらは素晴らしい仕事をしました。皆さんおめでとうございます!

最終日の興奮をさらに盛り上げるため、OISTはピッチを審査するための厳格な規定を作成しました。審査員として加わった3人のディーン(研究担当ディーンの山本雅博士、教員担当学監のミリンダ・プロヒッタ博士、研究科長のウルフ・スコグランド博士)と、慶應義塾大学医学部副学部長の門川俊明博士、出資者の川﨑達生氏、そしてOIST博士課程プログラムシニアマネージャーのグレッチェン・ジョーンズ博士によって個別に採点が行われました。

審査員らが誰を一等賞に選ぶか審議している間、キャンパーたちは川﨑氏と楽しい時間を過ごしました。

審査員である川﨑氏は、「科学界であれビジネス界であれ、医療現場であれ、良きリーダーというのは、他人に影響を及ぼす人です。そして他人をやる気にさせる人です。そのためには、メッセージを伝える力というのが大切です。みなさんがOISTのサマーキャンプで経験したことは、皆さんの将来のキャリアの上で必ずやプラスの要因となるでしょう」という言葉で、キャンプ生を鼓舞しました。

参加者の声

学術的な内容をすべて英語で、しかも原稿をほとんど使わずに話すという機会はなかったので、とてもいい経験になりました。また、プログラム中の講義で教えていただいたプレゼンテーションのコツもとても役に立ったので、今後、プレゼンテーションをする際にも活用していきたいと思います。

先の読めない世界を導く、未来のSTEMリーダー

10日間の冒険は、夏の風の様にあっという間に過ぎ去っていきました。キャンプを後にしたキャンパーたちは、開会式に参加した地味で控えめな学生たちとは一変していました。中には、OISTの教授と話をするために積極的にアポイントメントを取る人もいました。また、判断ができかねている他のキャンパーを正しい場所に導くことでリーダーシップを発揮した者もいました。何人かのキャンパーは、研究インターンシップに応募することを決意しました。中には、OISTの研究者と友達になったキャンパーもいました。

キャンプ終了後、OISTと慶應義塾大学は「科学・学術協力に関する基本協定」を締結しました。本協定は、互恵の精神に基づき連携・協力することにより、科学技術の振興に資することを目的としています。

この協定により、OISTと慶應義塾は、医学や生命科学の内外で、協力関係を拡大することになります。この拡大のきっかけとして、慶應義塾大学医学部とOISTは現在、慶應義塾大学の医学生がOISTの研究を長期的に体験して単位を取得することができる「長期研究インターンシップ」プロジェクトに取り組んでいます。

科学技術の進歩は、未来のSTEMリーダーなくしては達成できません。私たちOISTと慶應義塾大学は、今後も引き続き彼らの育成をサポートしていきます。

私たちはすでに、次のキャンパーを迎えることを楽しみにしています!

参加者の声

このキャンプで経験した全てのことは、生涯を通じてかけがえのない思い出になると確信しています。