”OIST x iTHEMS ワークショップ「宇宙と生命の謎」

イベントリポート:OIST x iTHEMSワークショップシリーズ1 

難解な謎解き- 科学者たちの夢見るための原動力 

報告:クレメント浩代/マリ・ベルグスヴォーグ 
 

卓越した科学者と最先端のインフラで世界的に知られる理化学研究所は、基礎自然科学分野において日本最大の研究機関です。そして、研究大学として急速に発展を遂げているOISTにとって、理化学研究所は非常に魅力的なパートナーでもあります。OIST-理化学研究所の共同での取り組みを強化すべく、両機関は、2020-2021年の覚書を含む二者間の協定を締結しました。この協定締結は、大きな展望のあるプロジェクトのきっかけとなり、それらを推し進め、新たな共同研究を育むことにつながりました。このうち、理化学研究所の「数理創造プログラム」(iTHEMS)は、OISTとの活発な共同研究の中心的役割を果たしています。

河野恵子准教授(OIST)と長瀧重博副プログラムディレクター(OIST/理化学研究所、iTHEMS): プレゼンテーション「私たちの細胞はどのように老化するのか?」にて 

3月4日から6日にかけてOISTで開催されたワークショップ「OIST×iTHEMS 宇宙と生命の謎にせまる―シリーズ1|宇宙線と生命プロジェクト」は、最も困難な問題に取り組むために必要なブレインストーミングの好例と言えるかもしれません。 

地球外での生命は未だ発見されていません。生命が存在する、あるいは存在していた、ということを示す物理的・化学的条件を遠隔で検出するための様々な試みにもかかわらず、太陽系以外に生命が存在する可能性も憶測に包まれています。成田憲保氏(東京大学)は、生命を宿すのに適した、あるいは適していない太陽系外惑星を研究する方法について包括的な見解を示しました。 

地球外生命体が存在しないことは、一般の聴衆を失望させるかもしれません。しかし、このテーマは物理学者、化学者、生物学者にとっては非常に多様な問いを刺激するものであり、これこそがワークショップの焦点でもあります。 

エヴァン・エコノモ教授(OIST) 
 
入谷亮介上級研究員(理化学研究所) 

そういった疑問のすべてをここで挙げることはできませんが、ワークショップ中にいくつか、両機関の研究ユニットにおいて実験的・理論的研究を重ねた努力を結集した重要な問いも浮かび上がってきました。「通常とは異なる環境下・変動する環境下における生命の研究」では、入谷亮介氏(理化学研究所)、エヴァン・エコノモ氏(OIST)、ギオルギー・カレリン氏(OIST)、ディヴィッド・アミテージ氏(OIST)、ウルフ・ディークマン氏(OIST)らが、それぞれの研究について発表しました。 気候変動予測に後押しされた面もありますが、これらの発表内容は、間接的に地球外生命探査に対してインスピレーションを与えるものになりました。 

ジョナサン・ドーファン名誉学長(OIST) 

また、今回のワークショップでは、理化学研究所(長瀧重博氏、辻直美氏、カミリア・デミデム氏)とOIST(ジョナサン・ドーファン前OIST学長)両機関のプレゼンテーションによって、「宇宙線」の領域についても巧みに解説されました。分子生物学者や生態学者の多くは、宇宙線にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、宇宙線が生命、過去と未来の進化に与える影響を解明する上で、彼らには果たすべき役割があるのです(エヴァン・エコノモ教授(OIST)による提唱)。 

黒澤元専任研究員(理化学研究所) 

今回のワークショップでは、細胞老化研究(河野恵子氏、OIST)、分子進化研究(ジェフリ・フォーセット氏、理研)、ゲノム複製研究(フローリアン・プフルーグ氏、OIST)、生体リズム研究(黒澤元氏、理研)、遺伝子発現制御研究(ハイサム・モハメド氏、OIST)、冬眠研究(儀保伸吾氏、理研)など、伝統的な学問分野の枠を超えて、多様な領域における最先端の方法論が紹介されました。 

このような学際的なディスカッションは、宇宙物理学と生物学の相利共生を強調するとともに、新たな探求の道を照らし出しました。聴衆が夢中になり、登壇者たちに次々と質問を投げかけたことからも明らかなように、この学際的ワークショップの直近の目的は達成できたでしょう。プレゼンテーションが馴染みのある内容から脱線するたびに、私たちはより多くのことを学ぶことが出来ました。 

主催者のひとりである河野恵子准教授と参加者たち:コーヒーブレイクにて 


こうした学際的な接触効果は明白で、参加者たちは新たに得た見識に後押しされて、新奇の研究へと向かう意欲を見せています。快くショートインタビューに答えてくれた、今回のワークショップの重要な立役者である2名のコメントからも、そのことは明らかです。iTHEMSの長瀧重博氏は今回のワークショップを、宇宙線と生命のつながりや、宇宙物理学と生物学全般に関して、OISTとの有意義な交流を図ることができたと評価しました。iTHEMSは今後、OISTの研究者を招いたセミナーの開催も検討しているようです。また、ジョナサン・ドーファン氏の「トンネルの実験」の講演やOIST河野恵子氏の細胞老化の研究に関するプレゼンテーションを挙げ、老化を含めた細胞の生物学的変化を誘発する可能性のある宇宙線ミュオンを測定するための議論を続けたいと話しました。OIST河野恵子氏は、今回のワークショップが期待通りのものとなり、すでにいくつかの共同研究が進行中であることを強調しました。 

 

科学者とは、夢を育むのが得意な人々です。そして、宇宙の深遠な謎ほど、驚きと好奇心を喚起するテーマはありません!OISTと理化学研究所のように、研究機関同士の協働がますます盛んになっていくことで、科学的探究の領域は、知識や理解を追い求める人間の飽くなき探求心によって前例のない発見へとつながるでしょう。 

主催者・長瀧重博副プログラムディレクター(OIST/理化学研究所、iTHEMS)

 

INVITATION PAGE: OIST x iTHEMS workshop series - Will We Find Answers? INVITATION

 

PROGRAM: OIST x iTHEMS workshop series - Will We Find Answers? PROGRAM

 

 

Photos: Jeff Prine