染色体の制御メカニズムを理解して細胞の生存戦略を知る

ゲノムDNAの担い手である染色体を維持することは、栄養増殖期と静止期の両方の細胞において極めて重要です。私たちは染色体の動態を制御するキープレーヤー、「コンデンシン複合体」の解析を通じ、細胞がどのようにDNAの安定性を保っているのか、また娘細胞へと正確に遺伝情報を継承しているのかについて研究を行っています。コンデンシンは、バクテリアからヒトまで高度に保存されたタンパク質複合体であり、2つのSMC (structural maintenance of chromosome) サブユニット、3つのnon-SMCサブユニットから成り立っています (図1および総説Yanagida, 2009)。これまでに、私たちは分裂酵母コンデンシン変異体の解析によって、コンデンシンが染色体の凝縮と分配、DNA損傷修復に必須の役割を果たしていることを示してきました (Saka et al., 1994; Aono et al; 2002; Nakazawa et al., 2008; Akai et al; 2011ほか)。現在、その分子メカニズムの理解に挑んでいます。

                                                  図1. コンデンシンは染色体制御のキープレーヤー

SMCヒンジ(蝶番)領域はコンデンシンの

私たちはコンデンシンSMC2/Cut14サブユニットの新規変異体’cut14-y1’を取得し、この変異体が染色体分配とDNA損傷修復に異常を示すことを報告しました (動画、Akai et al., 2011)。この変異体はSMCのヒンジ(蝶番)領域に変異箇所を持っていることが特徴であり、これまでの変異体解析では分からなかったコンデンシンSMCと一本鎖DNAとの相互作用の詳細が明らかになりました。さらに、コンデンシンのヒンジ領域が一本鎖DNA結合タンパク質であるRPA (replication protein A)と競合的に働いていることを染色体上、および試験管内反応の両方で証明することができました。最近、このヒンジ領域がSMCのATPaseドメインに依存してリン酸化されることが分かり、面白いことに、このリン酸化はヒンジの開閉を伴うことがSMCヒンジ2量体 (Cut14-Cut3) の結晶構造モデルから強く示唆されています (図2、Akai et al., 2014)。

図2. DNAとの相互作用を巧みに制御するコンデンシンSMCのヒンジ(蝶番)領域

ゲノム倍数性維持に必要なコンデンシンHEATサブユニット     

3つのコンデンシンnon-SMCサブユニットのうち、HEATリピート配列(分子間相互作用に関与するタンパク質の3次構造)を含んでいるCnd1, Cnd3の役割はほとんど理解されていませんでした。最近、私たちはエラー誘発性PCRを用いた網羅的な変異体作出法によって、新規cnd1, cnd3高温(または薬剤)感受性変異体を77株取得しました。分裂酵母は通常1倍体(半数体)ゲノムを維持して生きていますが、驚くことに、新しいcnd1, cnd3変異体は2倍体ゲノムをもち、細胞のサイズも大きくなっていることが判明しました(図3)。この結果から、コンデンシンHEATサブユニットはゲノムの倍数性を維持していることが強く示唆されます(Xu et al., 2015)。現在、コンデンシンがどのように倍数性維持に関与するのかを知るため、日夜研究に取り組んでいます。

図3. コンデンシンHEATサブユニットの変異体 (左: cnd1, cnd3変異体の表現型、右: HEATリピート構造内に同定されたcnd1, cnd3変異体の変異部位)

染色体上の転写領域はコンデンシンを求める

私たちはコンデンシンの染色体上での役割を理解するため、ChIP-seq法を用いてコンデンシンの染色体結合部位を分裂酵母ゲノム上にマッピングしました(図4)。また、コンデンシンがRNAポリメラーゼIIによる転写活性化領域へ結合することを、熱ショックタンパク質遺伝子などの誘導可能な遺伝子群を用いて証明しました。機能の欠損した変異型コンデンシンは転写領域に結合せず、変異細胞は染色体分配の欠損を高頻度で示すことも明らかになりました。これらの結果は、コンデンシンがRNAポリメラーゼIIによる転写物(RNA)の生成を認識して染色体上に結合し、遺伝子発現が活発に起こっている染色体領域を正確に娘細胞へと分配していることを強く示唆しています(Nakazawa et al., 2015)。細胞は熱ストレスへの対処など染色体上の活動を維持しつつも、コンデンシンにより遺伝情報を正確に子孫へ継承しているのかもしれません。


図4. コンデンシン蓄積部位を分裂酵母の染色体上にマッピングした(ChIP-seq法)

「伝統」の遺伝学的解析を次世代シークエンサーと組み合わせる

私たちは京大柳田研時代より分裂酵母で用いてきた遺伝学的スクリーニングに、次世代シークエンサー技術を組み合わせることで、新規の遺伝的相互作用を網羅的に探索しています。この方法により、染色体構成タンパク質と代謝制御因子との関係など、今までに予想されなかった分子間ネットワークが明らかになりつつあります。